『次は新得(しんとく)、新得〜。新千歳空港駅へは、次でお乗り換えください〜。』
どうやら電車が大きく揺れた反動で窓に頭をぶつけたらしく・・・
あまりの痛さに側頭部を押さえ、顔をしかめたワケで・・・。
あの一連の立てこもり騒動は、どうやら夢の中の話だったらしく。
父さんがそんなカッコいい青春時代を送ってるとも思えず。
それでも・・・
「帰ろうかな・・・」
都会暮らしに憧れていただけのボクには、あの夢で見た父さん似の男のような目標なんてなく。
そんな状態で東京に行っても、きっと後悔すると思われ。
ボクは、乗り換え駅のホームに立ち、しばし考えを巡らせた後、発車間際の帰りの電車に飛び乗ったワケで。
最寄りの駅に到着すると、あのサングラスの男は消えており。
駅舎を出たボクは、彼が言っていた喫茶店に立ち寄ることにしたワケで。
ドアに取り付けた鐘が鳴り、カウンタの中のマスターと目が合い。
「いらっしゃいませ。」
「ホットコーヒーを。」
カウンタに座り、サングラスの男が言っていた旨くないコーヒーを飲んだワケで。
「・・・あれ?」
「どうされました?」
「その写真・・・」
マスターの背後の棚には、フォトスタンドがふたつ立っており・・・
ひとつは、マスターと妹と思われる女の子が映った写真で・・・
「これですか?」
もうひとつ、マスターが差し出した古びた写真には・・・
ボクが今日見た夢に出てきた講義室で・・・
父さん似の男と酒井さんたちが肩を組んでおり・・・
「この髪の長いの、私の父なんです。」
マスターがいい声でそう言って指を差したのは酒井さんであり。
「昔、学生運動をしてたらしくて。その時の写真だそうです。
今は書道家として日本全国を旅しながら気ままに暮らしてます。
『努力しなければ、何も変わらない』って、いまだに青春気取りで・・・」
「これ・・・夢じゃないんですか・・・?」
「え?」
「あ、いや・・・何でも・・・」
“父さんは、こんな田舎で何も考えずに生きてきた”・・・ずっとそんな風に思っていたのに。
父さんの考えていることを知ろうともしなかったのはボクの方であり。
父さんは・・・
今も何かと闘っているのだろうか。
それを探りたくなったボクは、店を出、家路を急いだワケで・・・。
(完)