北の国まで'69 “闘争” ライライライ
今日ボクは・・・父さんに黙って富良野から出て行こうとしているワケで。
父さんが自分で建てたこの家は、なぜか廃材で作られており。
すきま風も入り放題で、風呂も何故か露天であり。
そんな不便だらけな生活に辟易していたワケで。
それよりも何よりも、不器用な生き方しかできない父さんを見るのが辛く。
ボクは今、大きめのカバンに服やら下着やらを詰め込んでいるワケで。
「ユタカぁ。」
「あ、何、父さん。」
ボクはカバンを布団の中に押し込めた。
「カレーできたぞぉ。食うか?」
父さんは、こもった声で本家のマネをしながら、一生懸命それなりの雰囲気を出しており。
まぁまぁ似ているとは思いつつ、本家にはカレーの登場シーンはそんなにないワケで。
「あ、今日はカレーいらない・・・ごめんね。」
「そうかぁ〜。」
部屋を出て行った父さんがカレーに夢中になるのは時間の問題と思われ。
ボクはその隙に家を出ることにしたワケで。
カレーを食す父さんの背後をカバンを持ってコッソリ通り過ぎたものの、ボクの予想どおり父さんはそれに気づく様子はなく。
いとも簡単に家出に成功したワケで。
これはこれでちょっと拍子抜けであり。
“あの人、一生ボクの家出に気づかないんじゃないか”なんて不安まで抱いており。
かと言って“ボク家出したんだけど!わかってる?!”なんて言う必要はなく。
そんな自問自答を繰り返している間に、家から遠く離れた“最寄りの駅”に何とか到着したワケで。
白い息を吐きながら、タンクトップから出た二の腕を手のひらで擦り。
ヘッドフォンから聞こえるラブソングの世界に浸って、1時間に1本しか来ない電車を待っているワケで。
いきなり後ろから誰かに腕を掴まれて、ヘッドフォンを外して振り返ると、ボクの後ろにあったベンチにサングラスの男が座っており。
「・・・何ですか?」
「いや・・・声出てたからさ。結構大きな声で歌ってたよ?」
「・・・歌、だけですよね?」
「そう言えばブツブツしゃべってたな。・・・ま、元気出せよ。」
その後、何だかわからないまま励まされた後・・・
この駅前にある喫茶店のマスターの妹が東京へ行き、女優になった話を延々聞かされ。
そうこうしている間にやっと電車は到着したワケで。
サングラスの男に会釈し電車に乗り込んだのだが、男は電車に乗る様子はなく。
ベンチに座ったまま、電車の中のボクに向かって小さく手を振っており。
もしかしたら彼は、彼女の成功を祈りつつも、彼女の帰りを待っているのかもしれない、なんて思ったワケで。
電車の中は思った以上の暖房が効いており。
のどかな農作地帯を映す車窓を見ているうちに猛烈な眠気に襲われたワケで・・・。