「・・・あのぉ・・・そもそもボールも合ってないんじゃないのぉ?」
「えぇ?!合ってないとか、そんなのあるのか?」
「あるよ。何のためにいろんな種類のボールが置いてあると思ってるの?」
「た、たしかに・・・」
「ボールの重さは、だいたい体重の10分の1。1ポンドがだいたい4.5Kgぐらいだから、自分で計算できるよね。
それと指の穴は、中指と薬指が少しキツめで親指が少しユルめ。それでいて3本の指を入れた状態で、手のひらがボールに馴染むものを選ぶの。」
「へぇ〜、なるほどなぁ・・・じゃ、探してくる。」
「はいは〜い。いってらっしゃ〜い。」
頭で体重を計算しながら、自分にあった重さのボールのゾーンへ行き、片っ端から指を入れてゆく。
穴の開く間隔や、穴の大きさなど微妙に違うことに初めて気づく。
「っと。これかな?」
持った感じもさっきのボールよりしっくりとくる。
そのボールを持ち、レーンへ戻った。
「これでやることにした。」
「了解。では次ね。足の運び。これを覚える。最後の一歩のところで投げるマネだけしてみて。」
北山の指示どおり、レーンの手前で左足を後ろに引いて投げるフリをすると、安岡が「そこから一歩ずつ下がって〜。」と声がかかる。
左足に重心移動し、右足を引き、重心をまた右に戻し・・・を繰り返し、数歩下がったところでストップがかかる。
「うん、そこ。そこから同じテンポ・同じ歩幅で最後まで行って投げること。」
「は、はい。」
「んでぇ、さっき投げてるのを見てたら手首だけで投げちゃってんのよね、酒井さん。」
「ヤスの言うとおり。ボールを錘(おもり)・肩を支点と考えて、前後に振り子のように腕を振るの。最後は手のひらで前に押し出すように投げる。」
「腕を斜めに振っちゃダメだよ?前後ね、前後。」
「前後、だな。わかった。」
「歩きながら重心を徐々に低くしていったら、ボールがゴトンって落ちることなくスッとラクにリリースできるよ。」
「おっけ〜・・・」
俺は静かに深呼吸をしてから構えのポーズをとった。
重心を下げつつ歩を進めながら、腕を真後ろに振り上げ、そのまままっすぐ前に振り出す。
静かに俺の手を離れたボールは、レーンの真ん中をキープしながら転がっていき、ピンを倒していった。
「お〜!酒井さんやるじゃん!さっきはガーターだったのにストライク獲れたじゃん!」
「すごいすごい!」
ふたりから拍手を送られ、笑顔で振り返る。
黒沢さんもカウンターの中で親指をグッと立てていた。
俺もそれに応えるように「いぇ〜い!」と高島忠夫のように両手の親指を立てた。
その後も北山と安岡にアドバイスを受け、スペアの取り方なども習得した。
運命のボウリング大会当日。
前回赤っ恥を掻いたあのボウリング場の前で待ち合わせだ。
「さ・・・酒井・・・なんだそのカッコ・・・」
「いやぁ、どうも!お待たせ!」
颯爽と現れる俺の格好。
ボウリングのユニフォームの背中に「セザール」の社名と、テンガロンハットをかぶって葉巻を咥えたクマのイラストを勝手に入れてみた。(完璧に無許可だ)
マイボールとマイシューズが入った大きなカバン。
リスタイと呼ばれるサポーターのようなものを手首に装着。
完璧にプロボウラーのようだ。(見映えだけは)
「さ、みなさんやりましょうやりましょう!」
意気揚々と皆を引き連れボウリング場に入店した。
受付と靴のレンタルを済ますと(もちろん俺はマイシューズだ!)、北山と安岡に教えてもらった知識をひけらかし、女性陣にボールの選び方などをレクチャーする。
そしてゲーム開始。
練習の成果か、出るわ出るわストライクとスペアの嵐。
もうウハウハである。
「ナイスカーン!」
湯浅卓のように髪を振り乱し両親指を立てて喜ぶ俺。
呆気にとられる残りの7人。
「・・・酒井。」
「はぁ〜い☆何でしょう?」
「・・・フツーにヒくわ・・・」
「・・・へ?・・・何で?」
何だか妙なムードのまま、ボウリング大会はお開きになり、二度と開催されることはなかった。
何故だ?!
何故俺がダメで、北山と安岡はいいんだ?!
何故なんだぁぁぁ〜〜〜〜?!!!
「ん〜、たぶん、すべてにおいてやりすぎちゃったんだと思うよ〜?」by黒沢
(完)