コックさんが料理を開始しながら口を開く。
「でも〜、さっきも言いましたけど、俺ホントに何もできませんよ〜?俺じゃなくて他の人を探した方がいいと思うなぁ、俺。」
「大丈夫ですって。ねぇ、村上さん?」
コックさんのコトバに答えるスマートな人。
何の話だろうか。
「ええ、そんなに難しく考えることはないかと。ボール蹴って相手のゴールに入れればいいだけですから。」
なんだ、サッカーの話をしてたんだ。
なんて、ぼんやりと考えていたら、ユタカが『ねぇ、テツヤさん、知ってる?』と声をかけてきた。
『ん?何がだ?』
『今度ねぇ、ご主人様たちフットサルのチーム作るらしいよ?』
『へぇ〜。ご主人様たち浮かれてるな〜と思ってたら・・・そういうことだったのか。』
なんて納得しながら、カウンターに視線を戻す。
しかし、一番初めにできたエビカツサンドをご主人様の前に差し出したコックさんが、ひとり浮かぬ顔をしている。
「ホントに俺
交じっていいのかなぁ〜・・・いまだにオフサイドの意味わかんないのに。」
「え?!」『マジか!』
ご主人様とオレ、同時に反応を示した。
オフサイド知らないってマジかよ!!
『オレもわかんないなぁ、オフサイド。』
とオレの隣で呟いたのは予想どおりカオルだった。
『・・・マジか・・・』
『うん。』
会話のキャッチボールどころか、サッカーもできないのかコイツとは。
「・・・そ、そうなんですか・・・」
「うん。オフサイドって、たま〜にテレビとかでVTR使って説明してたりするんでしょ?
その時は“ああ、なんとなくわかったような〜?”ってカンジなんですけどね、説明しろって言われると、“う〜ん?”みたいな。」
「は・・・はぁ・・・」
呆気にとられて返事するご主人様の横からニコニコな人が割って入る。
「ま、でもフットサルはオフサイドないですから。ね?やりましょうよ〜!」
「う〜ん・・・。あの〜、ポジションとかもねぇ、どういう動きすればいいのかも全然わかんないしなぁ〜。」
コックさんは苦笑いを浮かべながら、同時進行で手際よく作った料理を 残った3人の前に並べていく。
「んなものは何とかなるでしょ〜よ。“案ずるより産むが易(やす)し”っていうでしょうが。」
「う〜む・・・ちょっと時間くれるかなぁ?しばらく考えさせてよ。ね?」
「わかりました。じゃあ今週末ぐらいに最終的に決めましょうか。」
ご主人様のコトバに全員が賛成し、トークは他の話題へと移っていった。
「はい、みんなもお待たせ〜。はい、お肉、どうぞ。」
今日もコックさんがおいしいお肉を俺たちに出してくれた。
・・・しかし。
『やった〜、いただきま〜す!』と言って、カオルが取り分ける様子なく我先にと食い始めた。
呆気にとられる俺たちをよそに、モグモグしながら『あれ?みんな食べないの?おいしいよ?』と言うカオル。
コイツには、“オフサイド”より“キックオフ”から説明した方がよさそうだ・・・。