『ただいま〜!・・・ん?ふたりしてコソコソと何の話?』
『別に。何もないよ?ね、テツヤさん。』
『あ・・・おぅ。何もねぇ・・・』
『あっそ。』
ユタカは俺たちの前を通り過ぎ、もらったばかりの赤いリンゴ型のおもちゃを噛んだ。
“ぷぴ〜ぃ”
『お!やった!』
『またその音かよ!』
『いいぢゃん。かわいいぢゃん。リンゴだよ、ほら☆』
“ぷぴ〜ぃ。ぷぴ〜ぃ。”
『あ〜、うっせぇうっせぇ!』
『う〜ん、癒されるぅ〜。やっぱりさぁ、こういうお客様相手の仕事をしてると、何かとストレス溜まっちゃうんだよね〜。』
『まっっったく、そんな風には見えねぇけど?』
『俺だって大変なの!ワケわかんない高圧的な客とか、小難しいことばっか言う客とか相手しなきゃいけないんだもん。』
『んだと?!』
『ん?何もないよ?どうしたの?いきなり怒っちゃって。』
『お前っ、さっきの俺のこと言っただろ!?オイ!』
『へ?ただの例えだよ?・・・何?自分のこと言われたと思っちゃったワケ?』
クスクスクスと笑うユタカ。
さっきの笑顔と違う・・・何かが・・・。
くっそ、腑に落ちねぇ・・・
ユタカの相手すんのも疲れたし、寝て待つかな。
俺は伏せて、寝る体勢を作った。
『寝るんですか?』
ヨウイチが俺に聞いてくる。
『ああ。運動したしな・・・疲れたから寝る。ヨウイチ、俺のご主人様のトリミング終わったら起こしてくれよな。』
『・・・了解。』
寝る体勢をとって目をつむる。
ぷぴぷぴ音が少々耳障りだがな・・・。
『見てコレ。かわいいよね〜。ヨウイチさんも噛む?』
“ぷぴ〜ぃ・・・ぷぴ〜ぃ”
なんだよ、お前も噛むのかよ・・・
『ふふっ』
ヨウイチが笑った?!
『いいでしょ〜?癒されるよね〜?』
“ぷぴ〜ぃ・・・ぷぴ〜ぃ、ぷぴ〜ぃ・・・”
けっこうハマってんじゃねぇか!
・・・寝れねぇ・・・
ちょっと離れよっと。
立ち上がると、ヨウイチが『あれ?寝ないの?』なんて聞いてきやがる。
『寝るよ・・・(ったく、うるせぇなぁこいつら・・・)』
俺は、スマートな人が座っている足元に寝そべった。
「こんにちわ、テツヤくん。」
『はい、ど〜もぉ。』
再び目をつむる。
『ヨウイチさん、サッカーしない?』
『ん?してもいいけど、ユタカみたいにうまくないよ?』
『大丈夫だよ、ヨウイチさん運動神経いいから。』
『ん。じゃあ、いいよ』
『やった〜♪』
しゃかしゃかしゃか、と店内に響くふたつの爪音。