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俺が“ぷぴぷぴ”に頭を悩ませている頃、ご主人様のトリミングが始まった。

「そのジャージ、イタリア代表のヤツですよね。安岡さんはサッカーお好きなんですか?」
「あ、わかりました?ホントはアズーリよりサムライブルーの方が好きなんですけどね。
村上さんもお詳しいですね。」
「俺もサッカー好きですよ。昔やってましたしね。」
「俺もです〜☆いやぁ、うれしいなぁ、サッカー好きなお客様とお話ししながらカットできるなんて〜♪」

サッカー話に花を咲かせるご主人様とニコニコな人。
エキサイトしてきたのか、ふたりともだんだん声がデカくなってきている。

『ボクねぇ、サッカー得意なんだよ〜?かなりうまいし。』
ユタカが“ぷぴぷぴボール”に右前脚を乗せ、胸を張ってみせる。

『あ?聞き捨てならねぇな。俺にサッカー勝とうなんざ数億年早ぇんだよ!』
俺はそのボールを前脚で払って奪ってやった。

『へぇ〜。なかなかやるじゃん?』
不敵に笑うユタカに、俺も俄然闘志が沸いてきた。

『来い!』
『望むところだ!』

俺とユタカ、ボールを追いかけ店内を所狭しと走り回る。
床に散らばる人間の髪が舞い上がるが、気にしている場合ではない。
ご主人様とニコニコな人の怒鳴り声も聞こえるが、これは男同士の勝負。口を挟まないでもらいたい。

お互い獲ったり獲られたり。
なかなかいい勝負だ。

『ほら、ユタカっ、こっちだ!』
『待て!』

右へ左へフェイントをかける俺めがけて、ユタカが突進してくる。

『とりゃぁっ!』
ユタカが俺の隙をついてボールを目一杯叩いた。

“ぷぴっ!”

『あ!』『あ?』

ボールはポーンと跳ね、ドアに向かって一直線。

ちょうどその時、偶然にもドアが開いた。

 

バシッ!!

・・・ころころころ・・・

ボールは・・・ドアを開けたスマートな人の、隣にいたヨウイチの顔面にヒットした・・・。

『・・・・・・』

ヨウイチは一瞬何が起こったかわからないといった様子であったが、冷静なまま店内に入ってきた。

『やぁ、ユタカ、久しぶり。テツヤさんもいらっしゃってたんですね。こんにちわ。』

『あ・・・あはっ、いや、あの・・・ゴメンね〜!わざとじゃないよ〜、わざとじゃぁ〜!』
『いいよ。故意にやったことじゃないのはわかってるしね。』

いいのかよ・・・
コイツ、いつも冷静だな。
俺だったら絶対キレるけどな。


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