その頃、店のカウンターでは、ご主人様の席の隣、空席ひとつを挟んでふわふわの人が座っていた。
「えっと、じゃあ今日はエビフライカレーで。」
「は〜い。」
「あ、黒沢さん知ってます?駅前にねぇ、ドッグカフェできたんすよ〜。そこのスイーツうまいっすよ。」
「へぇ〜。そんなのできてるんだ。知らなかったなぁ。今度カオル連れてってやろうかな。」
おんなじ話してるじゃねぇか・・・デジャヴかと思ったぜ。
「あっ。そうだ酒井さん。紹介しておきますね。こちら、村上さん。Soul
barを経営されてるんですよ。」
「どうも、初めまして。村上です。」
「あっ、初めまして、酒井って言います。それにしてもSoul
barとは・・・かっこいい仕事されてるんですねぇ。」
「いやいや、かっこいいなんてもんでは・・・」
ちょっと恥ずかしそうなご主人様。
そうだろ?ウチのご主人様かっこいいだろ?
「酒井さんもかっこいい仕事してるじゃないですか〜!」
鍋の中身を混ぜながら声高に言うコックさん。
「いやいやいや!んなことないっす!」
手をブンブン横に振って否定するふわふわの人。
「何をされてるんです?」
興味津々なご主人様。
「酒井さんはねぇ、漫画家さんなんですよ〜。ね?」
「ま、まぁ、あれですよ、漫画家っていってもピンからキリまでありますから・・・」
ふわふわの人はまた手を横に振って本当に困ったように否定した。
「いやいや、謙遜しすぎだよ〜。結構有名だと思うよ〜?」
「ちなみにどんな作品を描かれてるんです?」
ご主人様がふわふわの人とコックさんを交互に見て言った。
「たぶんペンネーム聞いたらすぐわかりますよ〜。」
「あ・・・“酒井さん”ですよね・・・もしかして、ダイアモンド☆サカイ先生ですか?!」
ご主人様は驚いた顔でふわふわの人を凝視している。
「“先生”なんてエライもんじゃないですよ!」
ふわふわの人はますます困ったような顔になった。
「うわ、マジっすか?!俺毎週連載読んでるんですよ!」
ご主人様、少々興奮気味だ。
「はい、村上さんには冷製パスタ。はい、こっちが酒井さんのエビフライカレーね。」
コックさんがご主人様とふわふわの人の前に皿を置いた。