「藁が梨になった。観音様が言ってたこと、あながちウソでもなかったかも。」
もらった梨を大事に胸に抱えながらしばらく歩き続けていると、道端の切り株に腰かけている旅の男が目に入りました。
「・・・大丈夫ですか?随分と汗かいて苦しそうだけど・・・」
若者は、具合の悪そうな旅人に声をかけました。
「あ、うん・・・ちょっとノドが渇いちゃってね〜・・・。」
「そうなんだ。じゃあこれあげるよ。」
若者はさっきもらったばかりの梨3つを旅人に差し出しました。
「えっ、いいの?!やった〜!ありがと〜!」
旅人は受け取った梨を早速かじりました。
「うわぁ〜、みじゅみじゅしくてうま〜い!ほらっ、見つぇ〜!果汁が湧いて出ててくるみたいに、ほらっ!」
旅人は興奮気味に梨を指差しましたが、部分部分噛み気味でした。
若者は「ほ、ホントだね・・・」と同意しながらも「みずみずしいのはお前の方じゃないか?」とココロの中で思っていました。
その後も、梨のうまさや品種、梨を使ったお菓子のレシピなんかを噛みながら一方的にまくし立てた旅人。
トークが一段落ついたところで、足元に置いていた包みから反物を差し出しました。
「いやぁ、ホント助かった!ありがとう!じゃあお礼にこれ!あげるよ!」
「えっ、こんなに立派なもの、いいんですか・・・?」
「いいのいいの!受け取って!」
「あっ、ありがとう・・・」
「どういたしまして!」
旅人はニコニコ笑顔で、手を振って去っていきました。
「い〜い笑顔だなぁ・・・」
若者は旅人をしばし見送った後、また歩き始めました。
すると。
「くっそぉ〜・・・どうすりゃいいんだよ〜・・・」
道の真ん中で馬が倒れていて、その傍らで商人の男が困り果てていました。
「あの〜・・・どうしたんです・・・?」
「あぁ、実はな、街に出てこの馬と布を交換しないといけねぇんだよ。
なのに馬がさ、見てのとおり、動いてくれなくてよ〜・・・。
今日中に布を手に入れないといけねぇってのに・・・立てっ、立つんだ、テツリンセイオー!」
商人は馬を揺り起そうとしますが、馬は苦しげで立ち上がりそうもありません。