到着したのは、先日安岡の「感情こめこめティンパニ」を見た、あのホールだった。
ステージ上には、黒ポン・安岡と、たくさんの女子学生が待機している。
皆が皆、何故自分たちがここに呼ばれているのか、わからぬままのようだ。
一様に、困惑した表情を浮かべている。
イェンス・レーマンだとかいうふざけた名前の日本人丸出しの男が、手を二度打って注目を集めてから口を開いた。
「こほん・・・。え〜。集まってもらったのは他でもない。
ここに集まった全員でオーケストラを結成する。
指揮者は俺。副指揮者は北山。以上。」
男の爆弾発言に場内が騒然とする。
思わず俺は声をあげた。
「い、いきなり何ですか?『指揮者は俺』って、指揮できるんですか、あなた。」
「指揮者ちょっとかじったことあんだよ。だから大丈夫。心配するな。」
「その『ちょっと』って何なんですか?」
「すいません・・・こんなこと言うのはあれかもしれませんけど・・・」
俺と男が言い争っていると、女子学生のひとりが戸惑いながら発言した。
「陽一様・・・じゃなくって・・・北山くんと安岡くんは才能あるから選ばれるのはわかるんですけど・・・
何故落ちこぼれの黒沢くんと酒井くんがいるんですか?
しかも酒井くんはピアノですよね?オーケストラに必要ないと思うんですが・・・」
たしかに。おっしゃるとおり。
「みんなわかってねぇなぁ。黒沢はなぁ、たぶん褒められると伸びるタイプなんだよ。
ゴルフの坂田塾とか絶対向いてないから。
黒沢・・・お前、コンマス(コンサートマスター)な。」
「え!いいの?!やった〜!わ〜い!」
何を弾いてもソウル調なヴァイオリニストがコンマスって・・・
そんな無茶な・・・
「酒井は前座。」
「ぜっ、前座?!」
「オケの演奏が始まるまでに客をあっためてもらう。」
「マジっすか!」
オーケストラに前座なんて聞いたことないし・・・