大学から目と鼻の先にある「ばり軒」という中華屋に到着した。
「おかえり〜!」
カウンターの中には、皿うどんのような髪型のオヤジがいた。
「ただいま〜!親父ぃ、友達連れて来たよ〜。」
だから友達じゃないってば・・・。
「お、いらっしゃい!好きなだけ食べてけよ!」
「じゃあ、とりあえずカレー3つね〜!」
「はいよぉ!」
中華屋で、さも当然のようにカレーを注文する息子と、さも当然のようにオーダーを受ける父。
「か、カレー・・・?!」
「うん、カレーもメニューにあるんだよ。うまいから是非食べてって!」
呆気にとられる俺に、黒ポンとやらは平然と答えた。
「酒井、あと何か食べたい物ある?」
「え〜っと、じゃあ、炒飯大盛!!」
「はいよぉ!」
メシにメシかよ・・・オカズ食えよ・・・
2杯目のカレーを食う黒ポンとかいう奴と、炒飯を食いながら天津飯を頼む雄二。
メシ食うのに必死で、ソウルとクラシックの融合とやらのことはすっかり忘れ去られているようだ。
向かいに座るふたりを眺めながら、俺はため息交じりにカレーをつついた。
「いらっしゃい!」
誰かが店に入ってきた。
「あ!陽一様だぁ〜〜!!」
うわ出た・・・
昼間の「感情こめこめティンパニ野郎」だ・・・
「あ〜!何なの〜?!アンタ、またボクの憧れの陽一様にちょっかい出してるの?!」
「ちょっかいとは何だ!一緒にメシ食ってるだけじゃないかっ!」
「あれ?君、オケのティンパニやってる子だよね?酒井の友達だったの?」
「友達なんかじゃありませんー!」「断じて友達なんかじゃない!」
そっぽを向いて同時に叫ぶ安岡と雄二。
「そう?仲良さそうに見えるけどなぁ〜?・・・あ、君も食べてく?ココ、俺んちなんだよ。」
「え?いいんですかぁ〜?!」
安岡は黒ポンの誘いを受け、さっさと俺の横の席に座る。
案外、物に釣られやすいタイプのようだ。
「カレーでいい?」
「はぁ〜い!やったぁ!」
しかも中華屋でカレーなのに普通に返事してるし。
「ティンパニくん、名前は?」
「安岡優ですぅ〜。陽一様の大ファンなんです☆アナタは?」
「俺は黒沢薫。ヴァイオリンでソウルとクラシックの融合を狙ってるんだ〜。」
「へぇ〜!すご〜い!」
しまった・・・抜け出しにくい空気になってきている。
早く帰って、指揮の勉強したいんだけど・・・。