キャンパスを歩いていると後ろから魔物の叫び声が・・・
「北山ぁ〜!!」
げっ・・・雄二だ・・・
こっちに向かって猛スピードで向って来る。
何故だか、あいつはあの日から俺のことを「友達」と思い込んでいるらしく、このところずっと付け回されているのだ。
雄二は「ビートたけしのスポーツ大将」の「カール君」のようなスピードとフォームとストライドで駆け寄ると、俺の目の前にピタリと止まった。
「すごいですよね〜、北山って!女子学生が『陽一様』『陽一様』ってキャアキャア言ってますよ!」
「寄って来ないでくれない・・・?」
「なんでですかぁ〜!そんな他人行儀な〜!友達じゃないですか!」
「いつ友達になったわけ?!そんな友達持った覚えないし!」
足早に逃げる俺を、雄二が執拗に追って来る。
「陽一様〜!!」
雄二とはまた別の、聞き慣れない声が俺を呼び止める。
振り返ると、満面の笑みで駆け寄ってくる少年・・・いや、男子学生が。
「君・・・誰??」
「初めましてぇ☆ボク、安岡優って言います!ティンパニ担当でぇす!陽一様のファンで〜すっ♪」
「はぁ・・・。」
またおかしなのがやって来たな・・・
「陽一様、誰ですかぁ?隣にいる小汚い奴は〜。」
「きっ、キサマっ!小汚いとは何だ!風呂は3日前に入ったとこだぞ?!」
みっ、3日・・・?!
「雄二・・・これ以上近寄らないで・・・マジで・・・」
「や〜い、嫌われてやんのぉ〜!陽一様、こんな奴ほっといて、一緒に行きましょ!ネ!」
「き、嫌われたのか・・・?3日だからそんなに匂いもしないはずだが・・・」
安岡って奴に背中を押されて、ショックで立ち尽くす雄二の元を離れた。
正直、安岡も今初めて会ったところだし、どうリアクション取っていいのかわからないんだけど・・・。
「陽一様ぁ〜☆今からねぇ、オーケストラの練習があるんですよ。ちょっと覗いて行きませんかぁ?」
オーケストラ・・・。
オーケストラで指揮するのが俺の子供時代からの夢なのだ。
オーケストラの独特の空気を、この身で肌で感じたい。
そう思い、俺は安岡と共に学内のホールに向かった。