「あのさぁ〜。」
カオルが車内の人々に聞こえるように口を挟む。
「ねぇ、車掌さぁん。いらない車両1個ちょうだいよ。」
『・・・はぁ?』
「橋が復旧した時に返してあげるから。ね?」
『ちょちょ、ちょっとお客さぁん?!』
カオルは、ふたりを率いて列車から降り、崖の方へ向かって歩いていく。
運転席から崩れた崖までは約1メートル。
間一髪で大事故を回避したことが見て取れる。
「運転手さん、すごいね!よく頑張った!」
「はぁ・・・ありがとうございます。」
突然窓の外から声をかけてきた3人組に、運転手は驚いた表情を見せた。
「ちょっと待っててよ。」
カオルは列車の前に立ち、ポンと手のひらを打って跪き、手のひらを地面に置いた。
すると崖から石の橋がにょきにょきと現れ、あっという間に向こう岸まで繋がってしまった。
「何だ!?一体どうなってる?!」
ことの一部始終を見ていた運転手が驚きの声を上げる。
「じゃあ、1両借りるね。ユウジ〜、ヨウイチ〜、手伝って〜。」
カオルの指示にヨウイチが2両目の車両の乗客を誘導し、1両目と3両目に移動させる。
無人になった2両目に、カオルが再び手のひらを当てた。
列車はレールへと姿を変えた。
「ユウジ、お願い〜。」
「うわ、これ楽しっ!リアル・プラレールだな、これは!」
ユウジは、出来上がったばかりのレールを軽々と担ぎ、並べていく。
「はい、できましたよ。」
ユウジが振り返って親指を立てて合図した。
カオルがヨウイチからアドバイスを受けながら、ちょいちょいと1両目と3両目を繋いで完成。
3人は先頭車両に乗り、運転手に言った。
「はい、できたから進んで〜。」
「あ、は、はい・・・」
運転手は緊張した面持ちで発車させた。
列車は先程完成したばかりの橋をゆっくり進んでゆく。
川向こうの街がだんだん近づいてくる。
車両がすべて渡り切ったところで、固唾を飲んで見守っていた乗客から歓声が巻き起こった。