「♪ちゃ〜んちゃちゃ〜、ちゃちゃ〜 ちゃちゃ〜、ちゃ〜ちゃ〜ちゃ〜 ちゃちゃ〜」
家来は「暴れん坊将軍」のテーマを口ずさみながら白馬を走らせた。
「ん?」
京で人気の反物屋「安岡屋」の前に黒山の人だかり。
「何だ?この人垣は。」
家来は白馬を川辺の柳の木に括り付け、歩いて店へ近づいていく。
「はい、いらっしゃい〜。本日よりクリアランスセールやってま〜す☆」
店頭で客を呼び込む安岡屋の店主もこれまた街娘に絶大な人気があり、店主のチャーミングな笑顔にメロメロになった女性客がワゴンの反物を買い漁っていた。
「何かと思ったら安岡屋のバーゲンかぁ。俺もそろそろ冬に向けて着るもの買わなきゃな〜」
本来の目的をすっかり忘れて店内を物色している家来の横を、場違いな幼い少年が通り過ぎた。
「お兄さ〜ん!」
「あっ、君は涙香和尚のとこの!」
店主は満面の笑みを浮かべてしゃがみ込み、少年と視線の高さを合わせた。
「お兄さん。あのね、和尚さまと僕が葬式出る時のピカピカの生地、ありますか〜?」
「あぁ、こっちにあるよ。おいで〜♪」
「うんっ」
あの子か?殿が言ってたのは。
普通の子じゃないか。
家来は、横目で少年を観察した。
もともと高かった店内の女性客のテンションがまたも少し上がった気もするが。
「この辺りは今年よく出てるよ。」
「う〜ん。いいのがいっぱいあるから迷うなぁ〜・・・」
「どれにする?」
「やっぱ葬式ってお坊さんにとっちゃビッグイベントだもんね。ビシッとキメたいんだ〜。」
少年はうれしそうに店主を見上げて言う。
「人の葬式を楽しみにしてるような発言すなっ!」と口からついて出そうになるのをグッと堪える家来。
少年の言葉を聞いた店内の女性客の「かわいい〜☆」という小さい声がそこここから聞こえてくる。
家来は「今の発言のどこがかわいいんだ!?」と叫びそうになるのをまた我慢した。
トレンドや季節感など、かなりのこだわりを持って反物を選んだ少年は、「じゃあまた来るね〜」と店主に手を振り、店を後にした。