そんな少年の存在は、京の街に徐々に広まっていった。
「涙香和尚んとこのおチビさん、可愛いんやて〜」
「お経も綺麗な声で読まはるらしいよ〜」
「ちょっとケッタイな(おかしな)子らしいんやけど、そこがまたええんやてぇ〜」
そんな街娘のトークを、京の街にお忍びでナンパ・・・いや、遊びに出ていた 時の帝の耳に飛び込んだ。
「何その子。恋愛のマジシャンと呼ばれたこの僕を差し置いて、女の子たちに妙にチヤホヤされちゃって。どんな奴なんだろ。」
将軍は早速山荘へ戻り、家来を呼び付けた。
「雄二〜。ねぇ、雄二〜。」
「またアンタはお忍びで街をほっつき歩いてたんかっ!アンタ、殿様だろ?殿様なら殿様らしく・・・」
「いいじゃん。無事で帰ってきたんだから。」
「そういう問題じゃないっ!」
「まぁそんなにカリカリしないで。あ、そうだ。雄二さぁ、涙香和尚っていう坊さんのとこの小坊主、知ってる?」
「涙香?ああ、アレか、『裸念仏』とかいう若いオンナに人気ある坊さんだな。そこに小坊主がいるのか?聞いたことないな。」
「へぇ、和尚まで人気あるんだ。ちょっとジェラシー。」
「あんなナマグサ坊主にジェラシー感じなさんな。」
「ちょっとさ、調べてきてくんない?その小坊主。」
「えっ?!俺がぁ?!」
「『俺がぁ?!』って当たり前でしょ。こんなくだらないこと頼めるの、雄二しかいないじゃん。」
「ひどっ!ひどいよアンタっ!」
「嘘だよ、嘘。雄二は仲いいから頼めるんだよ。他の連中は堅苦しくってダメなんだよ。」
「わかりましたよ・・・行けばいいんでしょ?行けば。」
家来はブチブチとブーたれながら将軍の部屋を後にした。