「あの碁会所には二度と行きたくないなぁ・・・」
『そう言わずに。また行きましょう。』
「陽一が本気出さないならね」
『・・・はい。』
とぼとぼと町を歩く。
『あれ何だろう!?』
「ん?今度は何?」
顔をあげると、電気屋さんに置かれたテレビが囲碁の対局を放送していた。
着物を着たオジサンがニガムシを噛みつぶしたような渋い顔で碁を打っているのが映る。
電気屋さんの店先に立って、意味もわからず画面を見つめる。
『この人たち、どうやってこんな薄い板の中に入ったんだろう?』
「こんな時代によみがえった陽一の方がよっぽど不思議だけど。」
って言ったけど返事はなかった。
対局に夢中で聞こえてないみたい。
『この人、強い・・・』
「え?どっちの人。」
『黒。先手の人だよ。』
「この酒井って人?・・・って、さっきのユタカくんのお父さんじゃないの?!」
『やりたいやりたい!この人とやりたい!』
「そんな人前で“やりたいやりたい”って言っちゃダメだよ。」
『何故?』
「ん?なんとなくね。っていうか、この人と対戦はできないでしょ〜。有名な人っぽいじゃん。」
『ほら、ユタカくんに頼んで・・・』
「けどボクのカラダで打つんだろ〜?ボクやだよ。こんな恐そうなオジサンとやるのはやだ。」
『いつの日か・・・彼と対局できる機会あればいいのになぁ・・・。』