ユタカくんと向き合って座る。
あ〜、キンチョ〜する〜!
「じゃ、始めようか。」
「あ、うん、よろしくお願いします。」
「黒、白、どっちにする?」
「じゃあ・・・黒沢だから黒で。」
「じゃあ君が先手だね。どうぞ。」
(陽一ぃ・・・どうしたらいいの?)
『まずは好きなところに置いてみて。』
(わかった・・・じゃあ、ここ!)
ぺちん。
「え!?」
『はぁ?!』
「・・・・・・え?ダメなの?」
『四角の中に置いちゃ駄目!線と線が交わったところに置くのっ!』
「あ・・・今のナシ!冗談だから!・・・♪じぇい!お〜!でぃ、ためて〜っ、え〜、えぬっ!」
「・・・何それ・・・」
「え!知らないの?ジョーダンズだよ!“このバカチンがぁっ!”って知らないの?」
「ごめん、あんまりテレビ見ないから・・・」
『カオルっ!冗談はもういいから早くしなさい!』
「う・・・ごめんなさい・・・」
ぺちん・・・
パチ〜ン!
うわ!ユタカくんが石置くといい音がする!
かっこいい!
パチン!
『あっ、コラ、勝手に置くなよ!』
(あ・・・忘れてた・・・パチンってやりたかったんだ。ごめんね。)
パチ〜ン!
この後、意味もわからず陽一の指し示す場所にパチンと石を置いていった。
「あ・・・」
ユタカくんがひざの上に置いた手をグーにして、小さな声で言った。
(・・・どうしたの?)
『久々に打ったものだから、嬉しくて・・・つい本気出してしまいました・・・』
(え〜!?まずいよそれ!陽一、オトナゲないよ〜!)
『は・・・反省しております・・・』
ユタカくんは急に立ち上がり、碁会所から走って出て行ってしまった。
「ユタカくん!待って!」
席を立ち大きな声で呼び止める。
みんながボクの方を見た。
そしてボクたちが使っていた碁盤に集まってきた。
「初心者の坊主が酒井名人の息子に勝った、だと?」
ざわざわしている・・・。
そのふんいきに、ボクはカイジのようにダラダラ汗をかいた。
「ぼ、ボクじゃないよ!」
みんながぽかんとした顔でボクの顔を見た。
「ボク、帰る!」
ボクは碁会所を飛び出した。