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とはいえ、囲碁の「い」の字も知らない、しかも「ご」の漢字も書けないボクは、行くあてもなくブラブラと歩くだけだった。

『あ!あれ見て!“碁”って書いてある!』
「ん?どこ?・・・あ!ホントだ!発見!」

ひとまずそこに向かって歩き出した。

『碁会所、かぁ。面白そうだね。入ってみようよ。』
「う、うん・・・」

 

ドキドキしながらドアを開けるとたくさんの人が1対1で向かい合って囲碁をやっている。

『よかった〜、囲碁もまだまだ捨てたもんじゃないね。』

碁をしている人たちはみんな真剣で、ボクなんてお呼びじゃないって感じだ。

「ねぇ、帰ろうよ・・・。」
『打たせてよ。お願い。』
「ん〜・・・じゃあちょっとだけだよ。」

 

「ボク〜?」
女の人の声だ。

声の方を向くと、カウンターの中のおねえさんがボクのことを見てた。

「こんにちは〜。こういうとこ初めて?」
ふうぞくじょうみたいなせりふだな〜。

「うん。初めてだよ。」
「あ。今日はユタカくんが来てるのよ。ユタカくぅ〜ん!」

おねえさんがだれかの名前を呼んだ。

「ん、何〜?」
向こうからニコニコ笑顔の男の子が走ってくる。

「今日初めてなんだって。ユタカくん、対局してあげてくれるかな?」
「わかりました!」

高そうな服に、かしこそうな顔、上品なたちふるまい。
ぼ〜っとユタカくんという男の子を見ていた。

「こんにちは!ボク、ユタカって言います。君は?」
「カオル。黒沢カオルだよ。よろしくね〜!」
「こちらこそ、よろしくね。・・・じゃ、あそこ空いてるから、行こうか。」
「あ、うん・・・」
『楽しみだな〜』


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