「やぁ。」
二度あることは三度ある、とはよく言ったもんですね。
男の子が裸足で歩いていると、さっきのトラより少し華奢なトラが現れました。
「ええっ、またぁ!?」
「僕は肉食べないから、君を獲って食べたりなんてことはしないよ。」
トラは穏やかな笑顔でそう言いました。
「ほんと?!よかった!」
「僕は食べないけど、メスのトラに捧げるんだ。」
トラは穏やかな笑顔のままとんでもないことを言いました。
「いままでのトラのなかで、あるいみいちばんこわい!」
男の子は本気で泣き出してしまいました。
笑顔と、話している内容のギャップが、男の子に相当の恐怖を与えたようです。
「じゃあ、何かくれる?」
「ん〜・・・サングラスも靴もあげちゃったし・・・」
たしかに男の子からもらえそうなものはあまり残っていません。
『・・・困ったな・・・あ、そうだ、スーツをもらったら、それを着てデートに行けるよね。』
今度のトラは、男の子のスーツを巻き上げ、モテ度をさらにアップしようと企てたようです。
「そのスーツなんてどう?」
「あ〜・・・けどスーツあげたら、した、ぱんつになっちゃ・・・」
「じゃあ、メスのトラの胃袋行きだね。」
「ひぃっ!あ、あげますよぅ!なにいっちゃってんすか、もう〜!」
男の子は慌てて白いスーツを脱ぎ、トラに差し出しました。
トラは早速スーツに袖を通してみました。
「・・・丈は短いけど胴はブカブカ・・・」
「うっさいな!おまえがほしがったくせに、もんくいわないでよ〜!」
トラが目ヂカラを効かせて睨みつけると、男の子は恐怖のあまり黙り込んでしまいました。
「ま、サイズはこっちでなんとかするよ。じゃあね。」
トラは颯爽と片手を挙げた後、あさっての方向に向かって何度か投げキッスの素振りをして歩き出しました。
そして「♪君を射止めてみせるな〜んとしてでも〜ぉ〜」と歌いながら森の奥へ入っていきました。
「あのトラがいちばんこわかったな〜、まじで。」
男の子は、上半身は黒のシャツ、下半身はパンツ一丁という不思議な格好のまま、大きなため息をつきました。
が、安心するのはまだ早かったのです。
そう、みなさんの推測どおり、男の子とスーツを奪い去っていったトラとのやりとりを見ている者がいました。