穴の外からは引き続き「♪ネズミ捕り is freedom〜(♪一緒に〜)」なんて歌が聞こえてくる。
『俺、今日ここから出ないから。』
靴磨きの手を休めることなく言うカオル。
『え、なんで?餌どうすんのよ。』
雑誌を閉じ、顔を上げるユタカ。
『え、だってさぁ、ここに来てからというもの、あのエラそうな猫に追っかけられっぱなしでさぁ、筋肉痛治んないんだよね。
だからユタカ、俺の分まで餌盗ってきてよ。』
『なんだそれ!ヤだよ、んなの〜!自分の分ぐらい自分で盗ってきなよ〜!』
ユタカはカオルの無茶な注文に呆れ、カオルに背を向けゴロンと横になった。
『む・・・ケチだなぁ。』
カオルも靴とパンストを綺麗に片付けた後、ゴロリと横になった。
険悪ムードですっかり静かになった穴の中。
一方、穴の外ではてつやが相変わらずのハイテンション。食う気マンマンだ。
『メインディッシュの前にまずは前菜のシーザーサラダでも食うかな?』
カオルとユタカは、てつやの言葉に耳と鼻をピクピク動かした。
『シーザーサラダ・・・?』
『たっぷり粉チーズ・・・』
『いい匂い・・・』
『食べたいなぁ・・・』
『腹減ったなぁ・・・』
そう。これがてつやの今回の作戦なのである。
いつもなら気配を消して2匹が餌を探している最中に急襲していたのだが、それでは勝ち目がない。
そこでてつやは考えた。
まず穴から出にくいシチュエーションを作り、極限まで空腹感を与え、体力と思考回路が低下した状態で穴から出たところを狙おうという魂胆なのである。
『あ〜、うンめぇ〜!』
2匹に聞こえるように叫び、穴に向かってウチワを扇いで香りを送り込む。
『むぁ〜っ!食べたい〜!』
ユタカが腹ばいで寝っ転がったまま床をポカポカと殴り、足をバタバタさせた。
『そんなに食べたいんなら食べに行ったら〜?今食べに行ったらお前が食べられるだろうけど〜?』
カオルはそっぽを向いたまま呟いた。
『む〜・・・感じ悪ぅ・・・』
ユタカは俯せの状態から壁の方へ寝返りを打ち、小さく丸まった。