「で?急に家に来るってことは、何かあったな?」
「まぁ、あんまり大したことじゃないんだけどね。
先週大学時代の友達と久々にメシ食いに行ってね、あまりに楽しかったからね、街角で投げキッスしたらたまたま近くにいた女の子が勘違いしてね、その子にずっと付け回されてるんだよ。
だから匿ってもらおうと思って。」
「どこが大したことないんだ!ところ構わず投げキッスすなっ!」
「誰かに向けてやったワケじゃないんだけど。業界用語で言うと“誤爆”ってやつだね。」
「何業界での話だそれは?!」
「今日も家帰って、窓から外見たら、電信柱の陰からじっとこっち見てたからね、電気も消さずに鍵だけ閉めてこっそり逃げて来ちゃった。」
「なんで電気消さなかったんだ?」
「部屋にいるっていう気配を残しとかないとね。」
「そういう計算はできるのに、街で投げキッスして女にストーキングされることは計算しなかったのだな。」
「うん。」
「・・・いい返事だな。」
「とりあえず、必要最低限のものだけ持ってきた。財布と〜、携帯と〜、携帯の充電器と〜、音叉と〜・・・」
北山はポケットを探り、取り出してテーブルの上に並べていく。
「あとはね〜・・・え〜っと・・・」
ポケットから軽く握った両手を取り出した。
「はい、俺のペット!」
北山の手のひらには小さなネズミが2匹。
「ね、ネズミぃ?!ウチ、猫飼ってんのに何連れて来てんの?!」
「見捨てるワケにはいかないじゃん。餌あげないと死んじゃうでしょ?」
「知らんぞ?てつやに食われても。」
「ダイジョウブ。ウチのカオルとユタカは賢いから。」
北山はテーブルの上に2匹を置いた。
『ユタカぁ、ここどこなんだろうね?』
『なんかここ・・・猫の匂いしない?』
『くんくん・・・ホントだ!』
『まったく。陽一さん何考えてんだか。』
『お?何かうまそうな匂いするじゃん。』
匂いに誘われ、てつやはテーブルに飛び乗った。
『あ!餌!』
『あ!敵!』
『逃げろ!』
『待て!』
酒井邸にて、今、壮大なる追い駆けっこの火蓋が切って落とされた。