ロバが雑誌に載ってた囲碁の次の一手を考えながら歩いていると、「なんだよぅ、コンチクショ〜ぅ!」とクダを巻いている犬に遭遇しました。
あまりに泥酔しているのでロバは心配になり、犬に声をかけました。
「あの・・・ダイジョウブです?かなり酔ってるようですけど・・・」
「・・・おぅ?よう、兄ちゃん、アンタい〜い声してるねぇ、いいよいいよ〜。」
犬はロバの肩をパンパン叩きながらそう言いました。
「はぁ・・・それはどうも・・・」
「アンタみたいなのはねぇ〜、ベースボーカルとかやった方がいいよぅ、うん。」
「はぁ、ベースですか・・・やったことないですけど。」
「心配すんなって!俺が教えてやるから!な、兄ちゃん!」
「わかりました。わかりましたから、その『兄ちゃん』っていうの、やめてもらえません・・・?」
そんなこんなで、突如、街角ベースボーカル講座が開講されました。
犬の根拠ない自信モリモリで始まった講義でしたが、ロバは持ち前の音楽センスでみるみる上達してしまいました。
「それはそうと、なぜ昼間っから飲んだくれてるんです?」
「ああ、俺?実はさぁ、聞いてくれよ〜・・・」
犬は、猟師に飼われていた猟犬でした。
犬はオフの時間に地図や旅行雑誌を見るのが趣味で、そこに載っている観光地・名所・グルメスポット・温泉に思いを馳せるのが大好きでした。
そこでおさまれば無問題(モーマンタイ)でしたが、そうじゃないのが犬の悪いクセ。
行きたくて行きたくてたまらなくてウズウズし始め、次第に獲物を追う仕事も手につかなくなりました。
そして最終的に、ガマンできずに獲物を追うフリをしてフラリと旅に出てしまう・・・という放浪癖が犬の欠点だったのです。
「コラッ、哲也!また仕事放棄してっ!」
「だってさぁ〜・・・・・・♪満たされぬ しょ〜うどうがっ」
「♪またっキぃバを〜剥ぅく〜ぅ」
「♪つ〜き明かり差すっ」
「♪そっの〜素肌に・・・ってそりゃウルフであって犬じゃないでしょ!思わず歌っちゃったじゃないかっ!しかもちょっとマネして歌っちゃったよオイ!!」
「ったく、ガミガミガミガミうるせぇなぁ・・・」
反省の色が見えない犬のヒトコトに、猟師はとうとう堪忍袋の緒が切れてしまいました。
「アンタもうクビっ!どこなと好きなとこ行きゃあいい!」と犬を解雇。
そんな経緯から、犬は飲んで飲んで飲まれて飲んで飲んで酔いつぶれて眠るまで飲んでいました。
「なるほど。(低音)」
ロバは身につけたばかりの低音で言いました。
「じゃあ犬さんもどうです?今から東京へ行って音楽でもやろうかと思ってるんですけど。」
「へぇ〜、おもしろそうだなぁ。一緒に行ってみっか。久々に浅草辺りにも行ってみたいし。」
そう言って犬はグラサンを取り出して装着し、
「行こうぜ。地図ならここにあるからまかせとけ。」
と、まるで自分が言い出しっぺのような態度でロバを引き連れて歩き出しました。