「これはこれは。ショムゴは相変わらず暇そうだねぇ〜。俺たちにも時間わけてもらいたいよ〜。」
センターに立っていた男が村上さんに視線を向け、嫌味ったらしく言う。
「これはこれは。自称エリート集団が仕事もしないで人事部に何の用だよ。
ゴマのひとつも摺らないと上に上がれねぇのか。」
今度は村上さんが脚立を担いだまま言い返す。
「出世コースに関係のない人たちには一生かかってもわからないだろうね。」
このセンターの男、エリート集団のボスキャラ?
性格悪すぎじゃない?
「あれ?黒沢じゃん!何やってんの?」
ボスキャラの脇を固めた男のひとりが声を上げる。
その顔を見ると、入社直後の研修で隣の席になった同期の奴だった。
「あ。あの〜・・・今日から・・・庶務五課に行けって言われてさ・・・」
「ぎゃはは!マジで!?営業部で何やらかしたの?!」
「気の毒だなぁ〜!」
「あそこ行ったら、もう二度と這い上がれないよな〜!」
集団に寄ってたかって言われ、返す言葉が見つからない。
俺は口唇を噛み締め俯いた。
「たったひとり相手するのに、団体でねぇと文句のひとつも言えねぇのかよ。
お前らガキ丸出しだな。」
む、村上さん・・・!?
「何だと?!俺が上に手を回したら、お前らなんて簡単にクビにできるんだよ!
わかってるんだろうな!」
ボスキャラが声を荒げて、村上さんに詰め寄る。
「ガキの喧嘩に“親”を出してくるなんて、ますますガキだな。まだムケてねぇんじゃねぇの?」
「なっ・・・!?」
村上さんのひとことで、場の空気が凍てついた。
「せいぜい非力なモン同士、徒党を組んで頑張ってみるんだな。
どうせお前ら酒井の占いによると・・・ま、いいや。・・・行くぞ、黒沢。」
担いだ脚立で群れを掻き分け、村上さんが先へ進む。
慌てて後を追う。
後ろの方で「『占いによると』、どうだって言うんだよ・・・」というボスキャラの呟きが聞こえた。