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俺は私物を入れた段ボールを抱え、地下2階に向かった。

地下2階で降りると薄暗い廊下が続いていて、左右に倉庫や資料室など普段は用のない部屋が設けられていた。

きょろきょろしながら先へ進む。

あった。
人事部長の説明どおり、突き当たり。

ドアには、筆で『庶務五課』と書かれた半紙が貼られている。
なかなか達筆。
左隅に変な丸っこい顔のような絵が小さく描かれている。
これは意味不明。

ドアを開ける前に、聞き耳を立ててみる。

『にゃ〜ぉぅ』
猫の鳴き声がする・・・ここ、会社だよねぇ?

はっはぁ〜ん。そっか。わかったぞ。
きっと江戸家猫八か江戸家小猫か江戸家まねき猫が中にいるんだな。
そう考えたら合点がいくわ。
昔、土曜の朝にキンカン提供の民謡の番組やってたな〜、なんて思い出したり。

もうちょっと聞き耳を立ててみる。

『・・・来てます。来まくりやがってます。』
『酒井さぁ〜ん。何がぁ〜?』
『・・・水晶に“天然”という言葉が浮かんでいます。』
『どういうことだろうね。』
『うなぎか?』

・・・全く話の内容が読めない・・・。

『ちょっとトイレ。』
という声とともに内側にドアが開く。

段ボールを持ったままドアに耳を押しつけていた俺は、その体勢のまま思いっきりバランスを崩した。

「うわぁ!」
段ボールの中身が部屋内に散乱し、そこへ向かってダイナミックにコケた。

「痛ぁ〜・・・」

「にゃあ!」
俺の前を猫が走って横切って行く。

「うわぁ!本物の猫だ〜!かわいい〜☆」
立ち上がり、猫を追い掛けようと一歩踏み出したところにペンが転がっていて、それに足をとられ思いっきり尻餅をついた。

「痛ぁぁ〜〜・・・」

部屋の中にいた4人の男性社員が俺を見てぽかんとしている。

「あはっ、営業部から来ました、黒沢です〜。」
頭を掻きながらペコリとお辞儀をする。

「・・・酒井の占い、また当たったな。」
「恐縮です。」
「酒井さん、それ梨元のマネ?」
「ヤス、古すぎ・・・」

誰も俺の話聞いてないし・・・


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