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翌朝、黒沢はいつものようにひとりで家を出ようと玄関で靴を履いていた。

「組長。」
組の若い衆に呼び止められ、黒沢は靴の紐を括る手元を見つめたまま「何だ?」と返事する。

「おひとりで出歩かれては危険です。仕事先までお送りします。」
「お前らがついてきたらますます目立つだろ。その方が危険だ。そんなことはしなくていい。」
黒沢は前を向いたまま立ち上がった。

「行ってくる。」
「・・・いってらっしゃいませ。」

 

 

雑誌の取材の合間、5人はテーブルを囲み、休憩をとっていた。

「俺〜、組長をテーマにした曲作ろうかな〜。」
安岡の驚愕の告白に、向かいの席に座った黒沢は思わず飲んでいたコーヒーをブ〜ッと噴き出してしまった。

「うわっ!何だよ黒沢!」
「げっ!毒霧吐くな!」
安岡の両隣に座っていた村上が酒井が大騒ぎしている。

「や、だ、だってさ!おかしいだろ!『Pratinum Kiss』作った安岡が組長の歌、ってさ・・・」
黒沢は、安岡にかかったコーヒーの雫をハンカチで拭いながら言う。

「いや、そりゃあね、『♪組長〜、助けてくれて〜ありがとう〜』ってストレートな感じのやつじゃなくてね。
伝えられなかった感謝の気持ちとかさ〜、男が守っていくものの大きさとかさ〜、そういう・・・」

安岡は、コーヒーをかけられたことも拭かれることも特に気にする様子もなく、遠い目をしながら自分の構想を熱く語った。

「歌なんかにしなくても、きっと組長はお前の感謝の気持ちに気づいてるって!」
「黒ぽん、どうしてそう思うの?」
それまで黙っていた北山の鋭いツッコミが入る。

「や・・・あの、ほら、なんとなく、だよ。うん。たぶん、組長は感謝されるためにお前を助けたわけじゃないと思う、よ・・・?」
「ふむぅ〜。やっぱダメか、ゴスペラーズを使って組長に礼を言う作戦は・・・。」

安岡は左右の腕を胸の前で組んで、視線を上に向けて考え込んだ。

一方、黒沢は、安岡が曲を作るのを断念したことに、そっと胸を撫で下ろした。


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