「んじゃ、おつかれっす!」
「おつかれ〜」
今日最後の仕事であるテレビ番組収録が終わり、5人は口々に挨拶をし、控え室を後にした。
「黒沢さぁん。」
安岡は、タクシー乗り場へ向かう黒沢に声をかけた。
「お〜、安岡ぁ〜。おつかれ〜。」
「ご機嫌だねぇ♪ 何かいいことあった?」
「ん〜?今から久々にカレー食べに行こうかと思って〜。」
「久々に?!昼も食べたんでしょ?」
「うん。けどその店は久々なんだよね。」
「そういう意味か・・・言葉足らず過ぎだよそれ・・・。あ、あれだったらその店まで送ってこうか?」
「あ、いいよ、タクシーで行くから。お前んちと逆方向だし。」
「そっか。わかった〜。じゃまた明日ね〜。おつかれ〜。」
「お〜ぅ、おつかれぇ〜。」
ニコニコと笑って大きく手を振る安岡をノホホンとした笑顔で見送った黒沢は、局のエントランスで客待ちしていたタクシーに乗り込んだ。
シートに深く腰掛けて足を組み、運転手に行き先だけを告げる黒沢の顔からは、すっかり笑みが消えていた。
仕事先では誰にも見せたことのない鋭い眼光をサングラスで隠し、髪を手櫛で後ろに流した。
タクシーは、大きな日本家屋の門の前に停車した。
降車した黒沢は、白い塀に囲われたその豪邸の中に臆することなく足を踏み入れていく。
門の左右で黒沢を出迎えた数人の男が頭を下げる。
「おかえりなさいませ。お勤め御苦労様です。」
「今日は変わりなかったか?」
「特に、何も。」
「・・・そうか。」
黒沢は眉に深く皺を刻み込んだまま、玄関で靴を脱いだ。