繁華街から道を1本入っただけなのに、公道とは思えないほど明かりも少なく、車も人通りも全くない。
冷たい風がピューピューと吹き付ける。
「う゛〜・・・寒っ!」
ぶるっと身震いして、購入した本を脇に挟むとポケットに手を突っ込んだ。
そしてマフラーに深く顔を埋めるように首をすくめ、少し背中を丸めるようにして初冬の夜道を急いだ。
「ぅおらぁっ!」
突然男の喚き声が響き渡ったかと思うと、目の前の路地からひとりの男がヨタヨタと体を引きずるように出てきた。
その後、続いて男が3人飛び出してきた。
「おら待てっ!」
「なめんじゃねぇぞ、おらっ!」
追われている男は息も絶え絶えといった様子で、暗闇とは言え、初めの大声も3人組のうちのひとりの声だと容易に判別がついた。
3人組は安岡の存在を気にも留めていない様子で、ひとりの男を取り囲んで殴る蹴るを繰り返している。
安岡は目の前で起こっている惨劇から1秒でも早く走り過ぎてしまいたかったが、驚きと恐怖で体が思うように動かない。
足元をコンクリートで固められたかのように、一歩も足が動かないのだ。
「おらぁっ!」
痛めた片腕を押さえ前屈みになった男の胸元に、3人組のひとりの蹴りがクリーンヒットし、「ボコッ」という生々しい鈍い音を立てた。
「ぐはぁっ!」
蹴られた男はその場に蹲った。
今、安岡の目の前で繰り広げられているのは、喧嘩などという生ぬるいものではない。
“この人、このままじゃ死んでしまうんじゃないか・・・?”
不安と恐怖の中、安岡は無意識のうちに携帯で110番を掛けていた。
「もっ、もしもしっ!警察です・・・か・・・」
脇目も振らず男を痛め付けていた3人組が、「警察」という言葉に敏感に反応し、一斉に安岡の方を振り返った。