「・・・ん・・・?」
「あ!気づいた?!よかったぁ!」
白い天井と鼻を突くような消毒液の匂いで、黒沢は自分が病院のベッドに横になっていることを把握した。
「・・・あのさ。」
「何?どうかした?」
「なんで、お前あそこに・・・」
「電話で話してるの、聞いちゃったんだ〜。様子がおかしいから、後をつけちゃった。」
「聞かれてたんだ・・・」
黒沢はバツが悪そうにぽりぽりと頭を掻いた。
「まさか・・・他のみんなには言ってない、よな?」
「言ったよ?黒沢さんには組長っていう裏の顔があること、撃たれて入院してることも、ぜ〜んぶ、ね。」
「おっ、お前なっ・・・!」
「うっそ。冗談だよ。秘密にしてたっぽいから、みんなには言わない方がいいかなって。
今は『虫垂炎が悪化して腹膜炎起こしてたから緊急入院した』ってことにしてあるから、うまく誤魔化しといてよ?」
「そうか・・・何から何までごめんな。」
黒沢は少し首を曲げて安岡に謝った。
「だって。黒沢さんには何度も助けてもらってるし。それにちゃんと『お礼』も言えてないし。」
病院の個室の中、黒沢と安岡は笑った。
「それとなぁ。安岡。」
「ん、何?」
「お前、チャカ、人に向かって蹴るなよな〜。暴発したらどうすんだよ〜。」
「んなの知らないよ!ピストルの扱いなんて知らないんだから!」
「うっそ。冗談だよ。冗談は抜きにして・・・危ない目に遭わせてごめんな・・・安岡の勇気には感謝してる・・・ありがとう。」
そう言うと、黒沢は静かに目を閉じた。
仕事復帰の日。
仕事に穴を開けたことを皆に詫びた黒沢だったが・・・。
「で、どーよ。ナースに剃毛してもらった感想は?」
「はぁぁ?!」
「『はぁぁ?!』じゃないでしょ〜。虫垂炎じゃなくて腹膜炎だったら剃る範囲もさぞかし広かったでしょう?」
「興奮した?興奮した?」
「どんなナース?可愛かった??」
「尿瓶プレイとかやったのかよ?」
「プレイって何だよ!プレイって!」
「ナースに『ガス出ました』とかって言ったの?ねぇ。それ何プレイ?」
「あ〜っ!もうっ!うるさいっ!」
安岡までもが一緒になり、おもしろがって黒沢を質問攻めにした。
しかし、それは秘密を守るための安岡の計らいであることを黒沢は気づいていた。
学生時代と変わらないノリで相変わらずバカばっかりやってるなぁと呆れつつ、それでも組長よりこっちの方が性(しょう)に合ってるかもと思う黒沢であった。
≪完≫