「もう何も持ってねぇだろうな?」
黒沢は腹を押さえたまま、苦しそうに頷いた。
後ろから背中を支えてやっている安岡は、自分に銃を向けたままの幹部を睨み付けた。
「ふっ。後ろのお前はあとから始末してやるから、おとなしくそこで待ってろ。組長、こっちに来てもらおうか。」
「こ、こんな状態で立てるワケないだろ!」
安岡が叫ぶ。
「いや、大丈夫だ・・・」
黒沢は、呻き声を上げながらゆっくりと立ち上がり、幹部の方へよろめきながら歩いてゆく。
腹からの出血が、床にぽたりと滴り落ちる。
「ほぅ。アンタの弱点は“絆”か。覚えておくよ。役立つのは今日が最後だがな!」
幹部は、黒沢の胸倉を掴んで頬にパンチを見舞った。
よけることもできず、まともに食らった黒沢は床に転がった。
幹部は俯せになった黒沢の肩をぐっと足で押さえ付けた後、そこを何度も踏み付けた。
安岡は、ただその様子を茫然と見つめていた。
その時、視界の端に銃がひとつ落ちていることに気づいた。
安岡がここに現れる直前に、黒沢が動きを封じ込めた手下の銃だ。
幹部は黒沢を痛め付けるのに必死で、こちらを気にする様子もない。
計画なんてない。とにかくやれることはやってみよう。
安岡は咄嗟にその銃に向かって走った。
そしてそれを黒沢に向かって蹴った。
銃はコンクリートの床の上を滑り、ちょうど黒沢の手に収まった。
黒沢は傍らに立つ幹部の右手を至近距離から撃った。
幹部の手から拳銃が落ちる。
黒沢は俯せの状態のまま、ひるんだ相手の足首を掴んでその体を床に叩きつけ、靴底に銃口を当て引き金を引いた。
バァン!
「ぐあぁぁ〜っ!!」
断末魔の叫びのような幹部の呻き声が響いた。