「この野郎!」
もうひとりが黒沢が身を隠す柱に向かって走ってくる。
あと数十センチといったところで黒沢は足をそっと横に出した。
敵はそれにまんまと引っ掛かり、蹴躓いた。
そこを先程と同様に利き手と脚の付け根を的確に撃った。
足音が消えた。
このフロアにいた敵の動きはすべて封じ込めた。
下のフロアで顎を砕いた奴は、おそらく戦線離脱しているだろう。
残った敵の戦力は、巻き込まれて階段から落ちた奴と、あの幹部。
黒沢は反撃を防ぐためにこのフロアの敵が持っていた拳銃を全て拾い上げ、ウエストの部分に捻じ込んだ。
そして非常階段を使って下のフロアへ降りる。
足音が鳴らないように細心の注意を払う。
一段降りる毎に、ガラスの入っていない窓の部分から下の階の様子が見えるようになってきた。
幹部と、あとひとりとなった弟分がフロアの中央で背中合わせで立ち、銃を構えたまま周囲を見渡している。
向こうからは非常階段が死角になってるようだ。
先に弟分の動きを封じ込めた後、幹部と対峙しなければ勝ち目はない。
黒沢はフロアを観察し、作戦を練った。
今自分が手にしている銃の薬莢には、弾丸が残り2発。
上で仕留めた敵から奪った銃には、弾はせいぜい1発ずつぐらいしか入っていないだろう。
下手したら弾を使い切っているものもあるかもしれない。
しかしそれを調べる時間は今はない。
なぜなら幹部と弟分が痺れを切らし、フロアの中を歩き始めたからだ。
ボヤボヤしていたら、そのうち敵に見つかってしまう。
先手必勝。黒沢は勝負に出た。
残りの階段を一気に駆け降り、弟分の右肘と右膝を目がけて銃を放った。
弟分は持っていた拳銃を落とし、その場に蹲った。