男の号令を合図に5人の若い衆が黒沢に向かって飛び掛かっていく。
黒沢は、瞬時に振り返って階段に向かって走る。
「お前ら、わかってんだろうな?!間違ってもそいつを殺すんじゃねぇぞ!生け捕りにして連れて来い!」
黒沢は階段を駆け上がり、あと数段のところまで迫ってきた敵の顎を強く蹴りつける。
上から転げ落ちてきた者に巻き込まれ、新たに1人が階下に叩きつけられた。
「何をモタモタしている?!早く捕まえろ!」
敵組織の幹部の男が声を張り上げる。
黒沢は2階に上がって、柱の陰に隠れた。
「おらぁ!どこ行ったぁ?!」
コンクリートの床に置かれたガラクタを蹴る音とガラの悪い喚き声が近づいてくる。
黒沢は足元に落ちていた空き缶をそっと拾い上げ、遠くに向かって放り投げた。
カランカランカランという派手な音に続いて銃声が響く。
黒沢は苦々しい表情を浮かべ、内ポケットから拳銃を取り出した。
相手が銃を持って自分を狙っている時以外は使わないようにしている、言わば“護身用”。
本当は使いたくないのだが、生命の危機が目前に迫っている。そんな綺麗事ばかり言ってはいられない。
暗闇の中、息を潜める。
耳を澄まして敵の足音を聞く。
今このフロアにいる敵は3人。手分けして探しているようだ。
ひとりの足音が黒沢の隠れている場所に近づいてくる。
黒沢は細く息を吐き、銃を握り直した。
そして隠れていた柱の横を通り過ぎようとした敵の頭部を、銃の柄で殴った。
ガツッという音と敵の呻き声がフロア中に響く。
敵は失神して、コンクリートの床に倒れた。
黒沢が身を潜める場所へと、残りのふたりが銃を撃ちながら向かってくる。
相手はふたり。しかも銃を持っている。
さすがに同時に相手するのは危険すぎる。
相手の足並みを乱し、ひとりになったところで仕留めることにした。
黒沢は周りを見渡す。
“・・・よし”
覚悟を決めて数メートル先の柱の陰まで走る。
バァンバァン!
銃を乱射する敵。
しかし黒沢の移動距離が短く、気づいてから撃っても命中はしない。
“次はあっちだな。”
瞬時に次の移動場所を見つけ、また走る。それを繰り返す。
敵の足音の距離感が変わった。
それまで同方向から追いかけていたふたりが、どうやら挟み撃ちにするべく別行動に出たようだ。
黒沢にとっては好都合。
もう一度神経を研ぎ澄ませ、足音を聞く。
黒沢が隠れている場所から近い距離にいる方の敵を、先に仕留めることにした。
柱から半身を出し、すかさず敵の股関節の辺りと、銃を握り締めた右手を立て続けに射貫く。
「ぐぁっ!」
撃たれた敵が大きな声を上げ、床に転がった。