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「これこれ、見て見て!」
走って戻ってきた安岡は、先程手渡したものと同じような重厚なメニューを差し出した。

表紙には、鍵を持った可愛らしいライオンが刺繍で描かれている。

「これは?」
「子供用のドリンクのリストだよ。これと一緒で子供用の料理のメニューも作ってあるよ。
今回は子供の客がいるっていうシチュエーションじゃなかったから、村上さん持って来なかったと思うけど。」
「これはどなたの発案で?」
「は〜い。俺で〜す。」
安岡が手を挙げ、満面の笑みで答える。

「ほら〜、子供ってさ、子供扱いされるの嫌いでしょ?大人の真似事が好きだし。
だからね、メニューも大人と同じ質感のものを作ったんだ〜。
『子供用のドリンクはこれです』って、ちゃちな作りのメニュー渡すより、いいかなと思って。
実際みんなすごく喜んでくれるんだよ〜?自腹で作った甲斐があったってもんだよ〜。」

「じ、自腹・・・」
熱く語る安岡をポカンと見上げる北山と酒井。

「あ、じゃあ接客に戻るね。はい、スタート!」
安岡が子供用のドリンクのリストをカチンコに見立てて、模擬接客を再開した。

「おのれのタイミングかい!」
酒井が呆れているのをもろともせず、安岡は酒井が手にしているメニューを手のひらで指し示した。

「こちらのヴーヴレ・モワルー・ル・オ・リューは甘口のフルーティーな味わいの白ワインで、アルコールの苦手なお客様でも飲みやすくなっております。
お値段もお手頃でございます。」
「ではこちらをお願いします。・・・安岡さん、実際にそのワインを持ってきてください。」
「畏まりました。少々お待ちくださいませ。」

ふたりにお辞儀をし、今度は落ち着き払った足取りでワインセラーの方へと向かっていった。

そしてワインとグラスを乗せたワゴンを押して戻り、テーブルに横付けした。

「お待たせいたしました。ヴーヴレ・モワルー・ル・オ・リューでございます。」

ワインのラベルをふたりに見せ、オープナーで抜栓し、ホストテイスティング用のグラスに少量注いで北山に差し出した。

北山はグラスのステム(脚)を持ち、少し斜めにして白いテーブルクロスを背景に色を見る。
そして鼻先に近づけグラスを回しながら薫りを確認した後、口に少し含んで舌の上で転がして飲み込んだ。

「ばっちりです。もういいでしょう。ありがとう。」
「やったぁ!」
北山から『合格』をもらい、安岡はワインボトルを掴んでラッパ飲みした。

「こらっ!夜の営業があるのに飲むな!」
酒井がボトルを分捕った。

「ちぇ〜っ、酒井さんケチ〜。」
安岡はプンと頬を膨らました。


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