「じゃ、続けましょう。」
村上を先頭に席へと向かう。
「こちらでございます。」
村上は椅子を引き、北山・酒井を座らせる。
「初めて来たのでわからないのですが、お薦めのコースとかありますか?」
北山はメニューに目を通した後、村上に質問をした。
「どのコースもお薦めでございますが、特にこちらのコースが女性のお客様に喜ばれております。」
その後きっちりとした接客を続け、北山から『合格』が出た。
「アンタ、やればできんじゃないの。」
酒井が村上を見上げて言った。
「当たり前だっつうの!真面目にやってもつまんねぇだろ?能ある鷹は爪隠すんだよ。」
「メシ食うのに笑いはいらんだろうが。吉本新喜劇じゃあるまいし。」
「すいません、ワインいただけますか?」
北山による模擬接客は続いている。
「畏まりました。少々お待ちくださいませ。」
村上がお辞儀をし、店の奥に消えていった。
入れ替わるように安岡がワインのメニューを持ち、ふたりが座るテーブルへとやって来た。
「ワインリストでございます。」
頭を下げ、北山と酒井に1冊ずつメニューを渡した。
「酒井さん、どんなワインが飲みたいですか?」
北山に急に話を振られ、酒井はビクッと肩を揺らした。
「あっ、あ、え〜っと・・・あんまり酒強くないんで、飲みやすくて辛くなくてお値段の手頃なもの・・・あります・・・?」
酒井はしどろもどろで安岡に尋ねた。
「なかなかいい質問でした。」
北山が酒井にニッコリ笑い指でOKサインを出した。
「だったらシャンメリーでいいじゃん、シャンメリーで〜。」
「アホっ!クリスマスの小学生かっ!ワインだっつってんだろうがっ!そもそもあんのかよ、ここによぉ〜!」
まだ飲んでもないのに酒井がクダをまいた。
「クリスマスとか子供の誕生日のために置いてあるよ。
こういう店に来るガキって金持ちだからシャンメリー知らないんだよね。けっこう喜ばれるよ。」
「安岡さん・・・ちゃんと接客してください・・・」
「あ!ちょっと待って!」
そう言って安岡は走って奥へと消えていった。
「彼は私の話を聞いてるんですかね・・・」
北山はその後ろ姿を見送りながら呟いた。
「いやいや、彼はこの店ではマシな方ですよ〜?」
酒井が安岡をフォローする。
「あれで『マシ』って・・・」
北山は愕然とした表情を浮かべた。