←BACK


「なぜこの店が流行らないのか知りたいので、私が客の役をやります。いつもどおりに仕事してみてください。」
「え〜!」「休憩時間なしかよ!」「後ででいいじゃん!」
口々に文句を言う3人。

「営業時間内にできないでしょう?はい、早く持ち場に着く!」
北山がパンパンと2回手を打った。

「せぇ〜っかく鍋とか綺麗に洗ったのに・・・」
「覚えてろよ伝説野郎・・・」
「今夜はヤケ酒だ・・・」
3人は重い足取りで持ち場へ向かった。

北山は3人に聞こえるように大きな声で説明を始めた。

「いいですか〜?客を集めるには、まず20才代から30才代の女性客に気に入ってもらわないといけません。
若い女性客が多い店には男性客も集まってきて、結果的に繁盛するんです。
私と酒井さんで若い女性客の役をするのでギャルソンとソムリエはその様に接客してください。
シェフは今ある材料で若い女性客の喜びそうなコース、1万円分を作ってください。」

「あの〜・・・」
酒井が北山の顔色を伺いながら声をかけてきた。

「何ですか?」
「俺もやるんすか?女性客。」
「そうですよ。」
「俺〜、女のしゃべり方とかやったことないから上手くできるかどうか〜・・・」
「・・・本気で演じなくていいですよ・・・地声で『ですます調』で話す程度で構わないので。」
「はぁ。はい。」
酒井は緊張した面持ちで返事した。

北山は酒井とともに一旦店を出て、再び店の扉を開いた。

「いらっしゃいませ。」
村上が首と背筋を伸ばしたまま腰を支点にするように綺麗なお辞儀をしてみせた。

「予約せずに来たんですが。」
北山があり得るケースを想定し、村上に問い掛ける。

「いつも予約なんてちょっとしか入ってないから、いつでも予約なしで全然大丈夫っすよ。」
「はぁ。」
「お席までご案内しますよ、お嬢さん。」

「スト〜ップ!」
北山がタイムをかける。

「何だよいきなり。」
村上が不服そうに舌打ちした。

「仮に予約が全く入ってなかったとしても、『予約入ってないから大丈夫』とか余計なことは言わなくていいんです。
『お席をご用意いたします』のひとことで対応できるでしょう?」
「はいはい。わぁったわぁった。」
「『はい』は1回。」
「は〜い。」
「『はい』。」
「は・い!」
「・・・ったく。あと『全然大丈夫』って日本語おかしいでしょう?
それに『お嬢さん』っていうのは何ですか、一体・・・年配の方が来たら何と言うんです?」
「オバハンが来ても『お嬢さん』だろ。俺いつもオバハンに『お嬢さん』って言ってるけど、うれしそうだぜ?」
「みのもんたを参考にするのはやめてください・・・ちゃんと『お客様』って言ってください。小さいお子さんでも立派なお客様です。」
「・・・はい。」


→NEXT

→ドラマTOP