「この店、もう閉めた方がいいですよ。これ以上の赤字を抑えるにはそれが一番です。」
「そんな簡単に言わないでくださいよ〜。死んだ親父が作った店を『閉めなさい』『はい、わかりました』って閉めるわけには・・・」
「お父様の名誉のためにも閉店してください。では失礼します。」
「わ〜!待って待って!」
「おい、黙って聞いてりゃお前らふたり何なんだよ?こいつ誰?」
「村上くん、よくぞ聞いてくれました。・・・この御方をどなたと心得る?
先の副将軍・・・もとい!伝説のメートル・ド・テル、北山陽一様であらせられるぞ!」
「伝説の!」「メート!」「ルドテル?!」
「いや、あの、切りどころおかしいから、それ・・・」
「酒井先生質問で〜す。」
「はい、何ですか?安岡君。」
「『めぇとるどてる』って何屋さんですかぁ〜?」
「それはね。・・・ん〜と〜、え〜っと〜・・・北山さん、続きお願いします・・・」
北山は軽く酒井を睨んだ後、小さく咳払いをして説明を始めた。
「メートル・ド・テルとはフランス料理の給仕人の最高位です。」
「おぉ〜、かっこいい〜。」
北山の説明に拍手を送る4人。
「いや、あの酒井さんまで拍手するのやめてください。」
「いや、だいた〜いの雰囲気はわかるんですけど、説明しろって言われるとねぇ〜。これがなかなか・・・。」
「では、失礼します。」
北山が頭を下げて店のドアに向かうのを、酒井が綱引きの選手のように「オ〜エス!オ〜エス!」と言いながら腕を引っ張って必死に引き止める。
そんなふたりにシェフが近付き、ふたりの肩をポンポンと叩いた。
「まぁまぁ、ふたりとも落ち着いて。せっかくだから5人でやろうよ〜、七並べ。」
「するか!!」
酒井・北山が絶妙のハーモニーで怒鳴る。
「で?北山さんとやら。この店に何か用?」
ギャルソンがポケットから煙草を咥え、火を点けた。
「は〜い、村上く〜ん。この店終日禁煙ですからね〜。やめてくださ〜い。」
酒井が煙草を奪い、自分の内ポケットから取り出した携帯灰皿に入れ、揉み消した。