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彼がおかわりを食べ終わり水を飲み干した後、ほっと息を吐き出して彼女に言った。

「話がある・・・聞いてほしい。」
「・・・何?」
彼女が不安気に返事をした。

「・・・さっきは悪かった。謝るよ。ごめん。」
彼女は黙って聞いている。

「実は・・・急なんだけど・・・来月イギリスの支社へ異動になることが決まったんだ。」
「え・・・」
彼女の表情がまた寂しげなものに変わる。

彼はスーツのポケットから小さな指輪のケースを取り出し、彼女の方へそっと押した。

「ついて来てほしい。」
「え・・・」
彼女が両手で口元を押さえる。

「ホントはコース料理のデザートを食べた後に格好よく渡したかったんだけど・・・」
彼は恥ずかしそうに小さく笑った。

「急な異動だから引き継ぎが大変でさ。さっきの電話もウチの部の後輩から引き継ぎの件でかかってきたんだ。
変なタイミングでかけてきやがってさ。明日会社で会ったらきつく言っておくよ、『俺のプロポーズ台無しにしやがって!』って。」

目の前で涙を流す彼女になんとか笑ってもらおうと、彼はわざと面白可笑しく話した。
そしてもう一度真面目な顔に戻して彼女に言った。

「結婚してくれ。」
「・・・はい。」
彼女はハンカチで涙を拭いながら答えた。

彼はケースからダイヤのリングを取り出し、彼女の左手の薬指に通した。
それは薬指の根元にぴたりとおさまった。

「おめでとうございます!」
従業員一同から拍手が起こる。

「いやぁ、一時はどうなることかと思ったけどな!」
村上がうれしそうに言う。

「うるさいよ!せっかく来てくれたお客様にエラそうに言ってさぁ!」
黒沢が呆れたように注意した。

「本日は数々のご無礼がありまして誠に申し訳ございませんでした。」
北山が深く頭を下げる。

酒井・安岡・黒沢も同様に頭を下げる。
ボサっとつっ立った村上の頭を黒沢が慌てて押さえつけお辞儀をさせた。

「いえ、こちらこそ。お騒がせしまして、すいませんでした。」
彼も5人に向かって頭を下げる。


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