「ねぇねぇ。せっかくだからみんなでカレー食べようよ〜。」
黒沢が厨房から炊飯ジャーとまかないカレーがたっぷり入った鍋をワゴンに乗せてやってきた。
「わっ、バカ!何だよカレーって!ちゃんとしたもの作れよ!」
村上が黒沢に詰め寄り、胸倉を掴む。
「だってさぁ、俺お腹減っちゃったんだもん。」
「だからバカだっつってんだろ!」
「ちょっと!お客様の前ですよ!やめてください!」
北山が慌ててふたりの間に割って入る。
ぐぅ〜・・・
「カレーのおいしそうな匂いで、お腹鳴っちゃいました・・・」
彼が胃の辺りを擦って、照れ笑いをした。
「もぅ・・・何それ・・・」
彼女は呆れたような表情を浮かべる。
ぐぅぅ・・・
「・・・あ。私も鳴っちゃいました・・・」
彼女が顔を真っ赤にして言った。
「んもぉ、じゃあ食べちゃおう食べちゃおう!ほら、村上、早く手伝って。安岡、水とカレーに合うワイン持ってきてよ。」
黒沢がいきなり仕切りだした。
「人使い荒いなお前。」
「それがお前の仕事だろ?ほら、早くお客様に運んでよ。」
「へいへい。」
村上は黒沢の指示に従って、カレーを2皿テーブルへ運んだ。
「お待たせいたしました。シェフ特製、日替わりまかないカレーでございます。本日はベジタブルカレーでございます。」
「・・・ありがとう。いただきます。」
彼はスプーンを掴んで早速一口頬張った。
「あ、うまい!何これ!」
彼が目を丸くして驚いた後、パクパクと食べ始めた。
「ホントにうまいよ。早く食べなよ。」
彼が困り顔の彼女を急かした。
彼女は困った表情のまま躊躇いがちにカレーを一口食べた。
「ホントだ・・・おいしい・・・」
彼女の顔にやっと笑顔が戻る。
「ほら、北山さんも。冷めないうちにどうぞ〜。」
「あ・・・ありがとうございます・・・」
北山が黒沢からカレーを受け取って振り返ると、さっき安岡がクロスを引き抜いたテーブルで村上・安岡・酒井がカレーを食べていた。
「北山さんここ座りなよ〜!」
安岡が自分の横の空いた席をポンポンと叩いた。
「はぁ・・・はい。」
その椅子に腰掛け、カレーを口に運んだ。
「ん・・・おいしい、すごく・・・」
北山もその美味に驚く。
「うまいっしょ〜?!ウチのシェフのカレーは!・・・あ、黒沢さんおかわりお願いします。」
「あ、はいはい〜♪」
黒沢はスプーンの手を休め、酒井の皿を受け取った。
「すいません、俺も・・・」
彼が頭をぽりぽりと掻きながら申し訳なさそうに言う。
「は〜い、どんどん食べてね〜♪」
黒沢は鼻歌交じりでおかわりのカレーを盛り付けた。