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午後5時。
夜の営業が始まる時間だ。

「今日は予約が7時に1件だけ入っています。週末はもう少し入ってるんですけどね・・・。」
酒井が北山に説明した。

「1件『だけ』ですか・・・」
「えぇ・・・」

営業時間を過ぎてもガランとした店内。
3人は慣れっこといった様子で、ぼ〜っと時間をつぶしている。

厨房から歌声がして、それにつられるようにして村上と安岡が声を重ねるが、北山に止められ再び沈黙が訪れた。

 

そして午後7時。
定刻を少し過ぎた頃、予約していたカップルが現れた。

「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました。」
北山は、村上・酒井と並んでお辞儀をし、客を出迎えた。

「お席にご案内いたします。」

村上がカップルを席まで先導し、椅子を引き出して座らせた。

ふたりにメニューを手渡したところで、男性客の胸ポケットの携帯の着信音が鳴り響いた。

「ごめん。ちょっと待って。」
彼女に断った後、彼は通話ボタンを押した。

「もしもし。・・・はい・・・はい・・・その件なんだけど・・・あ、少し待ってて・・・」
彼は携帯の下部を手で押さえ、彼女に言った。

「ごめん、ちょっと待ってくれるか?」
彼女は少し寂しそうな顔で小さく頷いた。

彼は携帯で通話を続けながら、店の人間に軽く会釈しながら店外へと出て行った。

その後、10分を過ぎても彼は戻って来なかった。
北山は意を決して彼女に近づいた。

「お料理はどういたしましょう?」

彼女は少し考えた後、「・・・彼が戻ってからでもいいですか?」と答えた。

「畏まりました。後程お伺いいたします。」
北山は頭を下げ、テーブルを離れた。

村上は彼女から見えない死角に立ち、への字口で眉を顰めた。
北山はそれを目で咎める。

何とも言えない気まずい沈黙が続く。

北山は店の奥に向かい、黒沢と安岡を手招きし、小さな声で言った。

「予約のお客様が来られたのですが、男性のお客様に仕事の電話が入って彼此10分ほど戻られていません。」
「え〜?」「ひどい彼氏だなぁ。」
「そこでお願いがあるんですが。」
「なんとかドリンクやちょっとしたお料理で時間つなぎしてもらえませんか?
その分の料金はお客様からいただかないので、その辺りを考えて・・・」

北山が言い切らないうちに安岡が「じゃあさ、」と前置きし、北山と黒沢に耳打ちする。

「じゃあ俺は〜、」
黒沢も同様に、北山と安岡に耳打ちした。

「わかりました。」
北山は笑顔を浮かべ、指でOKサインを作った。


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