程なくして黒沢がふたりの元へやってきた。
「シェフの黒沢です。本日はご来店ありがとうございます。」
「あの〜、ひとつ聞いてもいいですか?」
「何でございますか?」
「さっきカレーのような匂いがしたのですが・・・」
「あ〜。あれは『まかない』です。」
「・・・は?」
「営業時間を使ってゆっくり煮込んだ方がおいしく仕上がりますからね〜。」
「何やってんですかあなた・・・」
「カレー、召し上がりますか?特別にお出ししましょうか?私、本当はフレンチよりカレーの方が得意なんです。」
「・・・結構です・・・まかないを作るのは構いませんが、匂いが強くないものにしてください・・・」
北山が困惑した表情で眉間に手をやった。
「伝説の男からもこのカレーバカに言ってやってくれよ。まかない、毎日昼・夜2食ともカレーでよぉ、まいってんだよ。
喜んで食ってんの酒井ぐらいだし。」
村上が黒沢の頭を小突きながら言った。
「何だよ〜。いろんなバリエーションで作ってやってるだろ〜?」
黒沢はムッとした顔で反論する。
「ビーフもチキンもシーフードもマトンもグリーンもココナッツも、『カレー』って言葉が後ろについたら全部カレーなんだよバカ!!」
「バカバカ言うなよ!」
「だってホントにバカなんだから他に言い様ないだろ!」
「あ〜!もう!うるさいよお前らっ!・・・北山さんすいません・・・このふたり『カレー』のことになると、いつもこんな感じで・・・」
堪らず酒井が黒沢と村上の間に割って入る。
「黒沢さん。」
北山が声をかけた。
「あ、カレー食べたいんでしょ?すぐ持ってくるから待ってて。」
「いや、そうじゃないんです。」
「なぁんだ・・・」
黒沢が少し寂しそうな顔をした。
「カレー、得意なんですよね?」
「はぁ。まぁ。フレンチよりは。」
「そのカレー、店のメニューに活かしてみませんか?」
「北山さん?!」
酒井が目を丸くして驚いた。
「もちろん、カレー専門店じゃありませんから、すべての料理をカレー味にはできませんが。
肉料理のソースをカレー風味にするとか、そういう風に取り入れてみては?」
「うん!それいいね!」
北山の提案に黒沢は目を輝かせた。
「じゃあみなさん、夜の営業もさっきの調子で頑張りましょう。」
「は〜い!」
北山の音頭で4人は気合いを入れた。