午後4時45分―――警視庁・鑑識課。
「酒井さん。」
北山に名前を呼ばれ、顕微鏡を覗き込んでいた酒井がイスから立ち上がる。
「ああ、お帰りなさい。その後、収穫は?」
「収穫があったかどうかはわかりませんが、これを。」
北山が数枚のチラシをまとめて酒井に差し出した。
「はぁ、これ、ですか・・・調べればいいんですね?」
「ええ、よろしくお願いします。・・・さて、黒沢くん行きますよ。」
「えっ?行くってどこへ?カレー食べにですか?」
「・・・違います。」
午後6時―――特命係。
北山がパソコンの前に座り、素早くキーを叩く。
その後ろから黒沢がモニターを覗き込んでいる。
「失礼します。」
酒井が資料を手に特命係の狭い部屋に入ってきた。
「お、今日は隣の課のおジャマ虫がいないですな。」
「うん、ヤクの取り引き現場に乗り込むらしくてね〜、みんな出ていっちゃったよ。」
「ほぅ、そうだったんですか。・・・おっと、本題を忘れるところでした。」
酒井が手に持っていた資料をパソコンの脇へ置いた。
「さっきのチラシ、警視庁鑑識課 総動員で総力を上げて分析しましたよ。あと、こちら、USBメモリーにもデータ入れときましたんで、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
置かれた資料に軽く目を通した北山が、イスから立ち上がる。
「・・・ところで酒井さん。」
「はい?なんでしょう?」
「今夜、おヒマですか?」
「仕事も粗方片づきましたし、そろそろ帰ろうかと思ってたところです。」
「では一緒におつき合いいただけますか?」
「おおっ、飲みに行くんですか?そいつはいい。ゼヒ、お願いします。」
「ええっ?!飲みですかぁ〜?カレーじゃないの?」
お辞儀をする酒井とイスから立ち上がった北山を交互に見た黒沢が、不満の声を上げる。
北山はその言葉を無視してさっさと部署を後にした。