「随分高いところに置いてあったんだなぁ〜。」
「さっきも言ったでしょ、普段使ってるバッグじゃないから。オジサンには届かないかもね。」
「と、届くっての!ほらっ!くっ・・・!ほらっ、見て!ギリ届く!ギリ!ほらほらっ!」
見えない敵と闘っている黒沢を気にする様子もなく、北山は女子高生と向き合う。
「物色した様子もなかったんですよね?」
「うん、他のところは触ってる様子は全くなかったよ。」
「・・・そうですか・・・」
「『そうですか』じゃなくてさぁ、早く犯人見つけてよね、もうっ。」
「そのための捜査です。もう少しおうちを拝見しても?」
「・・・いいけどぉ・・・」
北山は、押し入れの中を見回して廊下に出、再び1階へと戻る。
玄関を確認し、リビングに入り、そのままキッチンへと向かう。
いつの間にか1階に戻ってきていた黒沢もその後を追う。
北山はキッチンにかけられたコルクボードに目を止めた。
新聞や雑誌に掲載されたレシピの切り抜きに混じって留められていたA5サイズほどのチラシを手に取る。
「家庭教師」「マンツーマンで学力を伸ばす!」と書かれている。
「これは?」
「ん?それ?家庭教師の会社のチラシ。ママ、そこに電話かけて担当の人に『いくらかかるんだ』とか説明聞いたんだって。
『今度のテストで成績落ちたらここで家庭教師頼むことにするから!』ってママに言われちゃってさぁ、脅しのためにそこに貼られてんの。
もう、そんなチラシ、ポストに入れないでほしいよ・・・」
「家庭教師かぁ〜!俺も昔来てもらってたんだよぉ〜!」
黒沢がうんうんと頷く隣で、再び北山がコルクボードから別のチラシを手に取る。
「『水道工事』・・・これは呼んだことは?」
「あるよ。庭の蛇口から水が漏れた時にね。」
「・・・そうですか。ところでこのようなチラシはポストの中によく入れられていますか?」
「うん、入ってる。週に2,3ぐらいで入ってるんじゃないかな。ママがいつも文句言ってる。」
「他にどんなチラシが?」
「なんだろ?わかんないけど。あ、チラシなら古新聞と一緒にまとめてくくってあると思うけど。」
「拝見しても?」
「えっ、陽一さぁん、なんでチラシなんか・・・」
「いいけどぉ〜?ちゃんと元に戻しておいてね。」
「承知しております。」
女子高生に先導されたふたりは、庭へと出た。
そこに設置された物置の扉を女子高生が開ける。
扉を開けてすぐのところに、古新聞・古雑誌が収められていた。
北山はそれをひとつひとつ解いていく。
「ええっ、陽一さん何やってんすかぁ〜?!」
「驚いてないで、黒沢くんも早く手伝ってください。」
「・・・はいはぁ〜い・・・」
「刑事さんって大変だねぇ・・・」
キッチンに入ったついでに冷蔵庫から取り出したと思われるアイスキャンデーをかじりながら、女子高生がふたりの行動を奇異の目で見つめている。
「保険の代理店に、警備会社、掃除代行、訪問介護・・・」
「あ、陽一さん、こんなのもありますよ〜。」
黒沢が1枚のチラシを見つけ、北山に差し出す。
「『ブランド品 出張高価買い取り』・・・?」
「最近は出張してくれるらしいですよ、そういうの。便利な世の中になりましたねぇ〜。」
「黒沢くん。」
「あい?」
「帰りましょう。さ、片づけますよ?」
「え?え?もう片づけちゃうんですか?」