午後2時―――
酒井から渡された空き巣事件の資料をもとに、被害者宅を順に回る。
当初北山が推測したように共働きの家庭が多いのか、どこも留守ばかりだ。
「うわ、ダメだぁ〜・・・陽一さん、ここのお宅も留守です・・・。」
「こういう時間に空き巣に入られてるのかもしれませんねぇ。」
「どうしましょう、夜に出直しましょうか?」
「夜までパトロールしましょう。今日もこの界隈に空き巣と売人が現れないとも限らない。」
「は〜い。」
「行きますよ。」
ふたりは車に乗り込み、警邏をするため周辺の巡回を開始した。
「誰もいませんね、ホントに〜。犬の散歩とかしてる人とかがいてもおかしくない時間なのに。」
「空き巣犯も売人も、その辺のところをよく考えて行動しているんでしょうね・・・。」
北山はハンドルを切りながら、何かヒントになるものはないかと目を光らせた。
午後3時半―――
2,3時間 周辺の巡回を続けたものの、いまだ怪しげな人間は発見できてはいない。
「困りましたねぇ、陽一さ〜ん・・・」
「まだあきらめるのは早いですよ?そろそろ下校時間になるでしょうし、共働きで勤めに出ていた主婦の方々も帰ってきそうな時間です。
もう少し警邏を続けましょう。」
北山の言葉どおり、しばらくすると集団下校する小学生や、中高生の姿が目立ち始めた。
家へと入っていく学生たちを見て、黒沢が呟く。
「この辺の子どもたち、み〜んなカギっ子だなぁ。俺も昔はそうだったけど。」
「おや、そうだったんですか?」
「はい、実はそうなんです。陽一さんには言ってなかったですね。」
「ええ、子供時代の話になったことはこれまでありませんでしたしね。」
「俺ねぇ、カギっ子だったんで家庭教師の先生に自分でお茶とかお菓子とか出したりしてたんですよ〜。」
「家庭教師、ですか。」
「ええ、塾に行ってもよかったんですけどね、本気の進学塾行くと、ほら、帰りが遅くなるでしょ?
だから親に無理言って家庭教師つけてくれって頼んだんですよ。
近くに住んでた大学生のお兄さんでね〜、どこかの大学の『ナントカ情報学部』に行ってて、メガネかけてちょっと神経質そ」
「あ、空き巣の被害者宅のお子さんが戻られましたよ。」
長くなりそうだった黒沢の話を、北山の言葉が遮る。
前方に見える1軒の玄関先に女子学生の姿が見える。
「あ!ホントですね!陽一さん、どうします?」
「ひとまず話を聞きましょう。」
「はいっ!」
北山は車のスピードを落とし、その住居の脇に駐車した。
車を降り、女子学生の元へと足早に向かう。
「すいませ〜ん!」
黒沢が呼びかけると、玄関のドアを開けようとしていた女子学生が動きを止め、振り返った。