「あっ、私、そろそろ行かなくちゃ。ほら、このバッグ見て。」
女性はそう言い、手に提げていたバッグをふたりの目の高さまで掲げた。
「このバッグ、私の手作りなの。」
「へぇ〜!手作り?!」
「主婦業の片手間にバッグ作り教室の先生やっててね、今日はその日なの。」
「すっごいな、買ったバッグみたいに見えますよ?!」
黒沢が驚いて目を見開くと、空き巣の存在に眉を顰めてた女性の顔にようやく笑顔が浮かんだ。
「ホント?ありがと刑事さん!空き巣捕まえてくれたら、アナタたちにもバッグ作ってあげちゃうから!頑張って!じゃあね〜!」
女性は小走りでふたりの元から立ち去った。
「は〜い!奥さまもお気をつけて〜!・・・って行っちゃった・・・よくしゃべりますねぇ〜。」
「しかし、なかなかおもしろそうなお話でしたねぇ。」
「そうですね〜っ!」
「もう少し、情報を集めたいところですねぇ・・・」
ふたりは顔を見合わせ、再び周囲を見回した。
午後1時―――
北山と黒沢は、警視庁内の廊下をを歩いていた。
「とぉくめい係のくろさわぁ〜っ!」
背後から喚く声が響いた。
声の主は振り返らずともわかる。
捜査1課の村上哲也だ。
「・・・うわ、また出たよ・・・」
「どこ行くんだよ?」
「酒井のとこだよ!お前に関係ないだろ!」
「おぅおぅ、またウチのヤマに首突っ込む気じゃねぇだろうなぁ?!」
「おあいにくさまっ、捜査1課とは関係ありませ〜ん!
ヤクの売買の捜査とか、あと空き巣とかもあるしさ、なにかと忙しいんだよ俺も!」
黒沢が村上に絡まれている真っ最中、その隣では、村上と行動を共にしていた捜査1課・安岡優が北山と立ち話をしている。
「北山さん、この前くれた紅茶、すっごくうまかったですよ!」
「それはそれは、喜んでいただけたようで・・・」
「あっ、そうだ、北山さんは日本茶とかも飲まれます?通販で無農薬のお茶お取り寄せしてるんですよ〜。
それがひとりではちょっと量が多くて、もしよかったら特命係のおふたりで・・・あいたたたっ!!」
話が中断したのは、いつものように黒沢に難癖つけ終わった村上が、安岡の腕を掴んでグイッと引っ張ったからだ。
「なぁにするんですかぁ?!」
「ヒマな部署とくっちゃべってる場合じゃねぇだろ、俺らはよぉ〜!」
「自分だってしゃべってたでしょうが〜!」
北山と黒沢は、モメながら去っていく村上と安岡の背中を呆気にとられながらしばし眺めていたが、北山が我に返り、声を上げる。
「我々ものんびりしている場合ではありません。急ぎましょう。」
「あっ、はい!」
特命係のふたりは鑑識課へと足を速めた。