午後9時―――取調室。
その後、現場検証に立ち会う酒井を残し、4人は応援に駆けつけたパトカーに乗り、庁舎に帰った。
出払っている組織犯罪対策部が戻ってくるまでの間、4人が犯人グループの取り調べをおこなうことになった。
犯人グループの中でももっとも気が弱そうな男の取り調べから始めた。
「お前ら、あそこの運送会社の社員か?」
村上が凄味を効かせて問い詰めると、その迫力に戦(おのの)いたのか体を縮こまらせる。
「ひぇっ!い、いえっ・・・ち、違います・・・あのビルの5階がテナント募集してたんで、借りてたんです・・・」
「で?どうやって空き巣を働いたんだ?あ?」
「あっ、あの、その・・・電話で依頼を受けた家に出向いて・・・
だいたいふたりで行くんですけど、片方が説明している最中に自然な理由をつけて席を立って、その隙に物色して・・・」
「で、盗んで帰るのか?」
「い、いえっ!その時は、置いてある場所の確認と、モノの状態を確認するだけです。その日に盗るとすぐに足がつくじゃないですか・・・」
男は、しどろもどろでありながらも素直に返答をした。
「あのさぁ、窓を破って入る時と、コッソリ入る時とあったでしょ。あれはなんで?」
村上の背後に立っていた黒沢が尋ねる。
「オメェは口出しすんな!」
「いいじゃん別に!お前だってヤクも窃盗も管轄外じゃないかよ〜!」
言い争う村上と黒沢を見て呆気にとられている男に、安岡が「あ、この人たちは気にせず!話、続けちゃってくださいね〜。」と話を先に進めた。
「あっ、は、はい・・・あの、コッソリ入る時は、その物色した際に家の鍵を見つけれた時です。
家の人間が目を離している隙に、テーブルなんかに置きっぱなしになっている鍵の型を取って帰るんです。」
「型、ってなんだ?」
「歯医者で『“印象”をとる』、とかって言うんですか?あれを使って・・・」
北山が「ああ、『アルジネート印象』などですか?」と口を挟む。
その言葉に村上と安岡が同時に「全然わっかんねぇ!」とハモった。
「いや、詳しい名前は知りません、これを使えって上の人間から言われてただけで・・・。
歯の型をとる時に使うヤツだ、って言ってました。その粉を水で練ったモノで型をとるんです。
でも鍵が見つからない時もある・・・そういう時は、窓を割って中に入ります。
あ、もちろん、割って入る手間をかけてでも手に入れたいレア物がある時だけですけど。
あの住宅地の辺りは、昼間は人気(ひとけ)がなくて、窓を割っても誰も気づく人はいない。盗みをするには快適な町ですよ。」
「『快適』ってなんだお前?!盗まれた方にとっちゃ全然快適じゃねぇだろうが!」
ペラペラと自供をしていた男だったが、村上に一喝されるや否や、頭をペコペコと下げ「ひぃっ、す、すいませんっ!!」と平謝りする。
「この取り調べ、天国のタミさんが見たら、あきれるだろうな・・・」
「うっせぇ、安岡。あれはタミさんだからできる芸当なんだよ。俺にはこういうスタイルが最適なんだよ!俺はオレ流で行く!」
「落合かよぉ〜・・・」
「庭の蛇口の修理・・・あれはあなたたちが先に蛇口を壊しておいたんですね?」
脱線しかけていた話に北山が割って入り、会話を立て直した。
「あ、はい・・・」
「新築の家で蛇口が壊れるなんて、相当な欠陥住宅以外ではありえないことですからね。」
「はぁ、言われてみればたしかに・・・」
北山の言葉に、逆に男が納得してしている。