「それと、ヤクの方は?」
「あ、あれは・・・実は・・・」
「実は?」
「盗みに入った家でたまたま大量に隠してあるのを見つけて、根こそぎゴッソリ盗んだんです。カネになると思ったから・・・。」
「そういうことだったのですか。盗まれた方も、盗まれたモノがモノですから、警察に届け出ることはできず泣き寝入りだったんでしょうね。」
「なるほどなぁ〜。」
今度は黒沢が納得した様子で頷いた。
「俺らはもともと盗みが専門だ。盗んだバッグをさばくルートは持っていたが、ヤクのさばき方がわからなかった。
だからバッグと一緒にあの倉庫に隠しておいたんです・・・。」
「おいおいおいおい、お前ら〜・・・」
取調室のドアが開き、組織犯罪対策部の課長が入ってきた。
「おかえりなさい、一斉検挙、うまくいきましたか?」
「うまくいくも何も・・・中止だったんだよ中止!」
「中止って?どういうことです?」
「取り引き自体が中止で なかったんだよ!
情報屋に『ガセつかませやがって!』って問い詰めたら、『ヤクがなくなったから急遽中止になったらしい』とかぬかしやがってよぉ〜!」
「なくなった?なくなったってまさか・・・」
課長以外の4人の視線が男に集まり、男は顔を強張らせて「もしかして、お、俺らが盗んだヤツ・・・?」と呟いた。
「さて、バトンタッチです。あとは組織犯罪対策部にまかせましょう。」
北山がそう言って、取調室から出ていく。
「さってっと、俺たちも帰るか・・・」
「はぁ〜あ、ハラ減った〜・・・」
「疲れたぁ・・・」
他の3人もそれに続けとばかりに愚痴りながら取調室を後にした。
残された課長がキョトンとした様子で「え?盗んだヤツって、何・・・?」と男に問いかけた。
取調室から出た黒沢は、そこにいた北山に歩み寄った。
「まさか空き巣犯がヤクを盗んでたなんて・・・予想外でしたね〜。」
「ええ、今回はラッキーだったということですかね。これで麻薬捜査も大きく進むでしょう。
・・・さて、事件も片づいたことですし、みなさんで夕食でもどうです?」
「えっ、陽一さんマジですか?!」
はしゃぐ黒沢の声を聞きつけた村上と安岡が、ふたりの元へ寄ってくる。
「おお、メシか!」
「やった〜!」
「ただし、」
大喜びする3人を制すように、北山が人差指を立てる。
「現場に残ってる彼もいます。お持ち帰りの寿司でも買って、あっちで食べることにしましょう。」
「ええ〜?!」
「倉庫で〜?!」
「風情ねぇな〜・・・」
「イヤなら、おごりません。さぁ、どうしますか?」
そう尋ねた北山に、3人は「行きます!」と即答した。
「じゃあ、行きますよ。」
北山は3人に背を向け、先頭を歩き出した。
「メシ〜!」
「寿司〜!」
「うに〜!」
北山は、背後から聞こえる3人の声を聞き、そして現場で寿司を受け取って喜ぶ酒井の顔を想像し、誰にも気づかれないように笑みを浮かべたのだった。
完。