村上がホワイドボードになっている1ヶ月のスケジュール表の今日の日付の欄を指差した。
そこにホワイトボード用のペンで何やら書き込まれている。
酒井のペンライトで照らされた無秩序なアルファベットや数字を、村上が順に読み上げた。
「あ!それブランド品の品番だ!」
黒沢が村上の元へ走り、同じようにホワイトボードを指差す。
「この段見てください!初めに書かれたアルファベットがブランドの略、その後がバッグの品番です!
あ、この下のは腕時計の品番です!間違いないです!」
「お前なんでンなこと知ってんだ?!」
「ほら、俺一応ブランド好きだし〜、ほら、彼女にもね、プレゼントするのに雑誌とかマメにチェックしてるから〜。」
「胸張れねぇ特技だな、そりゃ・・・」
満面の笑みで自信満々に説明する黒沢に、村上がイヤミを呟く。
「ということは何?今日の空き巣での収穫がそのバッグと腕時計ってこと?じゃあじゃあ、これはどこのブランドの何?」
安岡が割って入り、その下の文字の羅列を指差した。
「それは・・・それ、は・・・う〜ん・・・」
「なんだよ、お前わかったの
そのふたつだけなのにそんな自信満々に言ったのかよ?!」
「ちっがうよぉ〜!!これとぉ、これとぉ・・・あと、これもこれも!品番として成立するもん!でも中には わからないのもあって・・・そのぉ〜・・・」
「ちょっと待ってください。」
村上と黒沢の口論を、北山が遮る。
「なんですか、警部殿?」
「その黒沢くんのわからない記号・・・別に意味があるのかもしれません。」
「別に、ですか?」
「ええ。黒沢くんが品番だと言いきるモノはすべて黒ペンで書かれています。
しかしわからないモノはすべて数字、しかも青ペンで書かれています。」
「別の意味・・・」
酒井が青で書かれているモノを順にブツブツと読み上げていく。
「なるほど。わかりました。」
北山がポンと手を打ち、納得した様子で大きく頷いた。
「それは・・・GPSでの位置を表しているようです。」
「GPS・・・?!」
「ああ!なるほど!そうですよ!うん!位置だこれは!間違いない!」
酒井が感嘆の声を上げた後、「ということは・・・その後ろに書いてあるのは、まさか時間・・・」と言葉を続ける。
「恐らくそうでしょう。ご名答です。」
「ですよね〜!いやぁさすが警部ですな!あっはっは!」
「あの〜、そこのおふたりさん、わかるように説明してもらえません?」
笑顔を浮かべて讃え合う北山と酒井に、安岡が水を差す。
「説明しているヒマはありません。書かれている時間は刻一刻と迫ってきています。それまでにこの位置を割り出さなくては・・・」
「わかりました。じゃあここのパソコンを使って調べましょう。GPSの数値を入力するとだいたいの住所や地図がわかるサイトがあるんですよ。」
酒井が起動中のノートパソコンの前に座り、リズミカルにキーボードを叩く。
「このサイトです。入力しますよ・・・。」
安岡がホワイトボードに書かれた数字を読み上げ、それを酒井が打ち込んでいく。
「どうだ?!」
「これは・・・ここから少し海の方に向かったところにある倉庫だな。前に逃走した殺人犯が立てこもった時に行ったことあるわ俺。」
横からモニターを覗き込んだ村上が、指先で倉庫の名前をつついた。
珍しく仕事が早く終わって飲み行こうかと浮かれていたところを北山にまんまとだまされてここへ連れてこられた村上と安岡。
しかし今ではすっかり刑事の顔に戻りつつある。
「行きますか陽一さん!」
「行きましょう。みなさんもお願いします。」
「うしゃっ!」