「・・・しょ・・・こうやって、こう・・・」
ドアノブからカチャッという金属音が響いた。
「はい、どんなもんです!」
見事ドアの鍵を解除した酒井を、北山以外の3人が拍手で酒井を讃える。
「おおおおおお!」
「すげぇな酒井!」
「さすがピッキング犯!」
「ちゃうわいアホ〜!!普段はゼッタイこんなことしないんですから!」
「さぁ、みなさん入りますよ。」
北山はドアをゆっくり手前に引き、細く開いた隙間から様子を窺い、消灯されたフロアの中へと入っていく。
道路に面する壁一面の窓から、このビルの脇に立つ街灯の光がわずかに差し込んではいるが依然薄暗く、室内の様子がぼんやりと見える程度だ。
酒井がポケットから取り出したLEDペンライトを照らすと、ようやくその全貌が明らかになった。
「・・・事務所、のようですね・・・」
事務机と車輪つきの事務イスが30前後並べられており、各机の上には1台ずつ電話が設置させている。
普段ここで社員が仕事をしている気配がいろいろと残っている。
「この階で運送業としての通常の業務をおこなっているようですね。」
北山は近くにあったいくつかのパソコンの電源を押し、簡単にパソコンの情報を確認していく。
「ふむ・・・ところで酒井さん。」
北山の横からモニターを覗き込んでいた酒井は、北山に名を呼ばれ「はっ、はい!」と背筋を伸ばした。
「先ほど調べていただいたチラシはすべて同じプリンター、同じコピー機で印刷されたものでしたね。」
「はい、そうでした。プリンターやコピー、それに事務ソフトなどは、メーカーや機種によってクセがあるんです。
フォントはそれぞれ変えてありますが、あのチラシは間違いなく同じ事務ソフト、同じ機械で作られています。
あのチラシを作ったのはプリンターとコピー機が一緒になった、いわゆる『複合型』と呼ばれているモノではないかというのが鑑識の見解です。」
「え、陽一さん、まさかここでそんな話をするということは、この会社とあのチラシが関係しているということなんですか?」
「いえ、まだ憶測でしかありません。
先ほど署に戻ってデータベースでチラシに書かれた電話番号を調べてみたところ、それらの番号はここの建物の中にある電話に転送されているようなのです。
それを確かめるためにここへ来たのです。」
「へぇ〜、陽一さんホントなんでもわかるんだな〜。すご〜い。」
黒沢が拍手しながら北山の推理に感心する。
「黒沢さん・・・あなた、警部と一緒にパソコンの画面見てたじゃないですか・・・」
「いやぁ、だってさぁ〜、陽一さんパソコン打つのも見るのも早いんだもん。サッと調べてサッとパソコン切っちゃったからさぁ〜・・・」
「酒井、お前もわかりきったことをわざわざ聞くなよ・・・」
「これまた失敬。」
酒井は村上におふざけの敬礼をしたのち、室内を歩き始めた。
プリンターやコピーとおぼしき機械を順にチェックしていくためだ。
「う〜む・・・ここには複合機はありませんな。プリンターはプリンター、コピー機はコピー機、として設置されておるようです。」
「そうですか・・・OSソフトや事務ソフトなどはチラシ作成に使われていたモノと同じでしたが、それだけでは証拠不十分です。次の階へ行きましょう。」
「まだ調べんの〜・・・?」
「ハラ減ったなぁ〜・・・」
小声で愚痴る安岡と村上を気にする様子もなく、北山はさっさと階段の方へ戻ってゆく。
4人は深いため息をついて、後を追った。