午後7時―――湾岸の倉庫街。
最寄りの駅を降りて、かれこれ15分ほど歩き続けている。
今がちょうど日の入りの時刻であり、辺りは薄暗くなり街灯が点灯し始めた。
「陽一さぁ〜ん・・・それらしき店、全然見当たりませんよ?」
「ありますよ?・・・ほら、そのビルです。」
北山が指を差す方を、4人が同時に視線を向ける。
「これ、ですか・・・」
「ええ。」
倉庫の合間に立つ1軒のビル。
恐らく戦後しばらくして建てられたのであろう、5階建てで小ぶりとはいえ重厚かつアンティークな造りになっている。
どの窓もきっちり閉められており、明かりも全て消えている。
1階の脇にある階段下に貼られたプレートを黙視した北山は、階段を上がり始めた。
「行きましょう。」
「え?ここ?マジで?」
「ホントにこんなとこに店あるんですか・・・?」
「っていうかエレベーターねぇのかよ・・・」
北山の号令とともに4人は口々に呟きながら階段をゆっくり上がっていく。
全員が2階の階段脇にあるドアの前に到着したところで、北山がドアノブを捻った。
施錠され開かないのは想定内らしい、残念がることもなく背後に立つ4人の方を振り返る。
「鍵が閉まってます。」
「はぁ〜?!ちょっと警部殿っ・・・これは一体どういうコトなんですか?!」
村上が北山に胸倉を掴まん勢いで怒りをぶつけ、それを安岡と酒井が何とか止めに入る。
しかし北山は相変わらずいつもどおりの落ち着いた様子を見せている。
「私はひとことも『飲み行く』とは言ってませんよ?」
「くっそ、だましやがって!」
「え、ええ〜っ?!じゃあココ何なんですか?!」
「なんかおかしいと思ったんだよ〜、なぁ?」
「うん、てか酒ぇ〜・・・」
北山によってまんまとだまされた4人は口々に不満を吐き出した。
「ところで、酒井さん。」
「・・・はいはい。何でございましょうか?」
「このドア、開けれます?」
「・・・はは、またまたご冗談を・・・」
「鑑識の人間であれば鍵を入念に調べることもあるでしょう、解除方法もわかるでしょう。」
「そりゃあ犯人がどうやって開けたかとか知るために調べることもありますが、捜査令状もなく無断で・・・」
「お願いします。」
「・・・んもぅ、あとで何かあっても俺知りませんからね?」
酒井はカバンを漁り、ピッキングの道具を取り出した。