署に帰った俺はそのまま村上と安岡を連れ・・・猫も連れたまま鑑識課へと直行した。
ある事件の証拠品を取り出し、ふたりの前に置く。
「これは・・・昨日の銀行強盗事件の証拠品じゃねぇか。」
「そう強盗事件のホシが装着していた手袋です。合成皮革製品なんですが・・・ここ、見てください。」
黒い合皮の手袋の表面は何かの衝撃を受けたのか大きく裂けており、裂け目から表面の一部が欠けている。
そこにさっき採取したペンキのカケラを近づけていく。
「!?・・・手袋の欠けてる部分とこの黒い塗料とが一致してる?!」
「そうなんです、屋上で身を乗り出した時に見えた黒い点のカタチ・・・どっかで見たなと思ってたんです。
で、ふとこの手袋の表面の破れを思い出しましてね。」
「ということは、この手袋をつけていた人物が屋上にいたってこと?!」
「安岡!至急、強盗事件のホシを取調室に連れてこい!」
「わかった!」
安岡によって取調室に連れて来られたホシは、素直に自供を始めた。
強盗で盗んだ金を持って逃げていたホシは、一時的に身を潜めるためあるマンションに侵入した。
エレベーターに乗りドアが閉まりかけた瞬間に乗り込んできたのが被害者・・・つまりタミさんだった。
胸に子猫を抱いていたタミさんは、6階のボタンを押し、ホシに「すごい雨ですねぇ」と声をかけた。
タミさんはホシをマンションの住人だと思ったらしい。
「え、えぇ、ホントですね・・・」
ホシは住人のフリをすることにした。
「かわいい猫ですね。」
「そうでしょう。職場の近くで見つけましてね、拾ったんですよ。」
「なでても?」
「もちろん。」
タミさんは、なでやすいように猫を差し出したそうだが、それまでおとなしかった猫がいきなりホシの手を引っ掻いた。
「うわっ!・・・痛ぇっ!!」
驚いた拍子に、差し出した方ではない手から持っていたカバンが落ち、そのカバンの口の隙間から札束のかたまりが見える状態になってしまった。
「その金、何だ?!」
チンと音を立てエレベーターのドアが6階で開く。
ホシはタミさんの背中を後ろから強く押し、すぐにドアを閉めた。
最上階である10階のボタンを押し、エレベーターは再び上昇し始めた。