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その頃、6階の廊下に倒れ込んだタミさんは、エレベーターのランプをじっと見つめていた。
エレベーターが10階で止まったのを確認したタミさんは、一旦部屋に向かって猫と手荷物をそこに置き、再度エレベーターに乗ってホシを追ったと思われる。

10階で降りたタミさんはその階で辺りを見渡したが、恐らくそこにホシの姿はなかったのだろう。

タミさんはホシを刺激しないよう、足音を立てずゆっくりと階段の方へ向かった。

階段の下方から物音は聞こえない。
上方は、1階分しか階段がない。
もし上に向かっていたとしたら、もう行き止まりに到着し、そこで身を潜めているだろう。
下で身を潜めている可能性もなくはないが、タミさんはまず逃げる余地が少ない上方に向かってみることにしたんじゃないだろうか。

屋上へと繋がる階段の突き当たりに、金属製の重いドアがあった。
ためしにノブを捻ると・・・管理会社が戸締りを忘れていたことで、ドアは簡単に開いたのだ。

顔を覗かせ様子を窺う。
土砂降りの真っ暗闇の中、そこにホシらしき男の姿があった。

ホシはタミさんから逃れようと、咄嗟に柵を乗り越え、飛び降りようとした。

「やめろ!自殺はよくない!」

タミさんは駆け寄り、ホシのカラダを押さえて必死に引き止める。

「死んでどうなる?!それがあやしいカネなら警察に自首するんだ!」
「うるさい!離せ、オッサン!」

柵の手前でしばし揉み合っていた、その時・・・振り切ろうと暴れたホシの腕が、タミさんのカラダを柵の向こうへ押しやっていた。
タミさんは闇の中に吸い込まれたようにいなくなってしまった。
自分も落ちそうになってしまったホシは咄嗟に柵に捕まった。

猫に引っかかれた手袋の表面が柵に付着したのは、恐らくその時だ。
柵のペンキはほとんど乾いていたが、柵上部の横棒の裏側、ちょうど縦棒と交わっている部分は特にペンキが分厚く溜まっており、他の部分より乾きが遅かったのだろう。
乾きかけのペンキが接着面のように作用したことで、手袋の表面が貼りついてしまったのだ。

タミさんを突き落としてしまったホシは、まず逃げることを考えた。
派手に逃げればマンションの住人に不審人物だと疑われてしまう。
ホシはこのマンションに入った時と同様、普通に10階からエレベーターに乗り、平然とマンションを後にした。

夜の街に気配を溶かしながら強盗と殺人の刑罰について考える。

強盗と殺人では明らかに殺人の方が罪が重い。
強盗と殺人の併合罪となった場合、刑罰はさらに伸びる。
何とか逃げ逃げ果(おお)せなければ。

そこでホシはふと考えた。

もしかしたら・・・
さっき押し入った銀行に戻って強盗で捕まったら、強盗事件と屋上での殺人事件が同一犯だと気づかれることはないんじゃないか?
強盗犯として素直に捕まっておけば、あやしまれることもないのではないか?

ホシは銀行に向かって走り出した―――

 


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