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俺はメモを地面に置き、屋上の柵を階段の手すりに例えて握り、安岡に向かって実践する。

「タミさんの指紋が階段を昇った時ついたのは、タミさんの指紋がすべて上向きだったことで一目瞭然だよな。」
「うん。もちろん。」
「普通、階段を駆け上がる時は、・・・こうやって手すりに手をかけ、反動を使うようにして昇るだろ?
だから指紋のカタチは、手をついたところから少し引きずるようにスッと伸びるように残るんだ。
だがしかし、だ・・・ゆっくりと階段を上がる場合、こうやって、ギュッと手すりを支えにしてしっかりと握って昇る。
だから残る指紋は、しっかりと鮮明に残る。よって・・・階段に残るタミさんの指紋は後者のものだろう。
タミさんはゆっくりと階段を上がってるはずだ。」
「たしかに・・・もしホントに自殺だったとして、自殺するのに駆け上がったりとか、あり得ねぇしな。」

安岡の傍らにいた村上も、俺の推理を固めるべく意見を出してくれた。

「普通、自殺するのに走るなんて、ないだろうね。あったとしても衝動的すぎるもん。」
「ということは、酒井。階段の足音は・・・」
「タミさんの足音でない可能性が高い、ということでしょうね。」
「酒井さん!」

それまで沈み込んでいた村上と安岡の目に、再びチカラが宿る。

「あとは、その足音の正体を突き止めなければならんな。
階段を駆け上る、もしくは駆け下りる・・・どっちにしろあの狭い階段を手すりなしで走るのは無理がある。
指紋が残っていないということは、つまりは初めから手袋をつけていた可能性が高い。
ここは普段しっかり施錠もしてある立ち入り禁止の場所だ。まさか鍵が開いてるなんて思う人はいないだろう。」

俺が出した推理に、村上と安岡も大きく頷く。
安岡の肩に乗ったままの猫も、賛同したかのように一鳴きした。

「じゃあ一体誰なんだよ・・・」

俺はタミさんが飛び降りたと推測されている場所へ歩み寄り、再び柵から身を乗り出した。
すると被っていた鑑識課の帽子が柵の向こうへと落ちてしまった。

「おぁっ!」

帽子は駐車場に落ちることはなかったが、柵の向こう側のわずかなスペースで風に揺れている。

「ちょっと、酒井さん何やってんの!早く取らないと!」
「いや、取ろうとしてるんだが、ギリギリ手に届かん・・・これ以上身を乗り出したら落ちそうだぞ・・・」
「これ以上この屋上から警察官が落ちてたまるかよ!俺らがカラダ押さえといてやるから早く取れ!」

ふたりに後ろから支えてもらいながら、カラダを前方へ乗り出して必死に腕を伸ばす。
そうすることでようやく指の第一関節が帽子のふちに引っかけることができた。


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